観光立国の正体・藻谷、山田圭一郎
・はじめに・観光業界の「ルパン」・はじめに 観光業界の「ルパン」藻谷浩介・3・2023年10月9日 7:24:03
観光立国のあるべき姿 山田桂一郎・23・
第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス・24・
「非日常」よりも「異日常」を・2023年10月9日 8:23:13
・リピーターを獲せよ/27頁・
・常に生き残るために必死な国・30頁・
・ 英国富裕層によって「発見」されたアルプスの山々/33頁・
・目先の利益を追わず、「ハコモノ」を作らない・35頁・
・そのものをブランド化/38頁・
・日本の観光地がダメになった理由/42頁・
・寂れた観光地 に君臨する「頭のエライ人」/44頁・
・「観光でまちおこし」の勘違い/46頁・
・「人手がかかるよ産業」を大事にせよ・49頁・
第2章 地域全体の価値向上を目指せ・52・2023年10月9日 7:27:43
・キャパシティを増やさず、・消費額を引き上げる/
・ブルガーゲマインデという地域経営組織・54頁・
・足の引っ張り合いを避け、地域全体の価値向上を・56頁・
・地元で買う、地元を使う/59頁・2023年10月9日 7:41:58
・スイスの観光局は自主財源を持った独立組織・61頁・
自然と調和した景観を保持・63頁・
・馬車と電気自動車がも「たらす「異日常」/66頁・
・「時間消費」を促すことが「地域内消費額」をアップさせる・68頁・
・インストラクターは憧れの職業・70頁・
・最も重要なのは人財・74頁・
第3章・観光地を再生する・弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から・77・2023年10月9日 7:49:12dame
・地域振興に必要な住民主体の活動・
・忘れ去られた「高度成長期型」の観光地/79頁・
・「住民主体、行政の組織に一本化/81頁・
・住民ならだれでも参加OK/84頁・
・株式会社を設立、初年度から黒字に・88頁・
・エコロジーとエコノミー/92頁・
・外国人旅行客に大人気の「里山体験」/93頁・2023年10月9日 8:00:19
・「なんにもない」から「クールな田舎」へ・95頁・
・ とやま観光未来創造塾/98頁・
・「新幹線効果」の誤解/101頁・
・国際水準 ユニバーサルツーリズム・104頁・
・第4章・観光再生の処方・106・
・「ピラミッド型のマーケット」を構築せよ
・富裕層を取りはぐれている日本/109頁・
・北海道の「一万円ランチ」に人気が殺到した理由/110頁・
・負のスパイラルを防げ/115頁・
・格安ホテルチェーンが地域を壊す・117頁・
・ 近隣のライバルと協力した方が儲かる・120頁・
・休日分散化を真剣に考えよう/122頁・
・社会 全体に「観光」を位置付ける重要性・125頁・
・「地産地消」より「地消地産」/127頁・
・高野山が外国人に高評価のワケ・129頁・
・明確な将来像を描け・130頁・
・「観光立国」の裏側 藻谷浩介×山田桂一郎・137頁・
第5章 エゴと利害が地域をダメにする・138・2023年10月9日 7:20:22
・「地域ゾンビ」の跋扈・
・間違った首長が選ばれ続けている・140頁・
・「改革派」にも要注意・146頁・
・行政が手がける「劣化版コピー」の事業・147頁・
・補助金の正しい使い方/151頁・
・ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒/154頁・
・観光業界のアンシャンレジーム/・観光とはお客様を受け入れる側が地域全体で稼ぐことが基本です。・157頁・
2023年10月9日 8:11:26
・JRの「ドーピングキャンペーン」・162頁・
・ 顧客フィードバックの不在・166頁・
・竹富町の革新的試み/169頁・
・自治体の「旅行会社依存体質」/173頁・だめ
・有名観光地でゾンビたちが大復活!/178頁・
・観光庁の構造的問題181頁・
第6章・「本当の金持ち」は日本に来られない・186・
世界一の酒がたったの五〇〇〇円/
・「アラブの大富豪」が来られるか/191頁・
・近鉄とJR東海という「問題企業」/192頁・
・「ポジショニング」を理解せよ/201頁・
・野沢温泉と白馬/210頁・
・悩ましい大手旅行会社との関係/・213頁・
・玉石混淆のリクルート・215頁・
第7章「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである・219・
・北海道ガーデン街道/
・「熱海」という反面教師/222頁・
・せっかく好循環が生まれても······/228頁・
・大河ドラマに出たって効果なし!/232頁・
・戦術の成功の、戦略の不在・235頁・
・頑張っても大変な佐世保/237頁・
・「爆買い」に期待するなかれ・243頁・
・「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである・248頁・
・医療ツーリズムでも「マーケットイン」が不在・254頁・
・カジノが儲かるという幻想・258頁・
・それでも日本の観光に無限の可能性・260頁・
・おわりに・山田桂一郎・262・
・9/11/2023 8:19:52 AM・9/25/2023 4:36:11 PM・
・藻谷浩介・はじめに・第1章・
第5章・「観光立国」の裏側 藻谷浩介×山田桂一郎・137頁・
・山田、私も最近の講演では、地域振興や再生の問題は、突き詰めると全ての原因は「エゴと利害」であるとはっきり言っています。
人間社会だから仕方ないところもありますが、どれだけ良いしくみや組織を立ち上げ、計画を進めようとしても、地元のしがらみ 好き嫌いで判断されてしまった結果、全てが崩壊することがあります。
・行政が手がける「劣化版コピー」の事業
・はじめに・観光業界のルパン・3頁・2023年10月9日 7:23:02
・スイス・ツェルマットに在住の観光カリスマ、山田桂一郎さんとは、かれこれ一〇年以上のつきあいになります。日本各地の観光地の再生を手弁当でやっている山田さんの活動は、私の著書「デフレの正体』(角川新書)の中でも紹介しましたし、対談集の「しなやかな日本列島のつくりかた」(新潮社)ではご本人にも登場していただきました。
私は本もあまり読まず、ネットもテレビもほとんど見ず、日本と世界各地に設けた無数の定点観測点を繰り返し訪問し観察すること、「現場の知」を体現した人と対話を重ねること、それに幾つかの統計データの推移を分析すること、この三つを情報源にしていますが、観光を核とした地域振興という分野において、山田さん以上の知識と見識を持っている人を他に知りません。
・山田さんは一貫して、観光が「総合産業」であることを指摘し、観光先進国であるスイスを中心に世界各国で培った経験と知識を活かして地域経営支援を日本各地で実践しています。
・4頁
・私も地域再生のお手伝いの活動をしていますが、「言いっ放し」の私とは違って、山田さんはひとつの地域に関わる際、その地域を再生させる「仕組み」を作るところから手がけます。これは、山田さんが日本の観光地の再生を仕掛ける時、スイスの「ブルガーゲマインデ」という住民主体の地域経営組織に範をとり、それぞれの地域に合った組織を住民自らがつくることを出発点においているからです(ブルガーゲマインデについては、本書の第2章で山田さんご自身が説明をされています)。
ブルガーゲマインデという地域経営組織 - 未唯への手紙 (goo.ne.jp)
・当然ですが、仕組みを作るとなると時間も手間もかかります。山田さんがこれまで関わってきた地域はいくつもありますが、どの地域でも事業者や行政だけではなく住民が主体となって、持続可能でかつ自立した活動が目指されています。毎月スイスから来日しては日本中を飛び回っていますが、出向くのは東京や大阪ではなく、一般的に言えば「僻地」に近いところばかり。私もスケジュールが滅茶苦茶ですが、さらにスケジュールが滅茶苦茶な人といえば山田さんでしょう。
・私は昔から、モーリス・ルブランの『アルセーヌ・ルパン」のシリーズが大好きなのですが、山田さんは日本の観光業界の「ルパン」みたいな存在だな、とかねてより思っています。ルパンは自分のビジネスとは別のところで、謎解きだの人助けだのに首を突っ込んでは、推理力と行動力を駆使し、命をかけて弱者を救い、悪人をやっつけ、しか 往々にして十分にその見返りを得ないままに去っていく。
・5頁・
・山田さんも同じで、誰にも見えていない日本や地域の将来の姿が彼にだけは見えている。それを先取りして現実を動かす。しかし、いったんことが成功してしまうと、彼の存在は忘れられてしまう。そ して、現実が変わった後には本人はそこを離れていて、またどこか別の場所に姿を現すのです。
・大きな枠で言うと、日本の観光の問題は二つあります。
・ひとつは、日本の観光にはマーケティングの思想が決定的に欠けていることです。
・「いい製品を作れば売れる」という「プロダクトアウト」の発想しかなく、「市場が求めているものを創り出す」という「マーケットイン」の発想がない。「俺たちはいいものを持っているんだからPRをすれば客が来るはずだ」という観念に凝り固まった観光業者が本当にたくさんいるのです。そういう人たちは、私や山田さんが「マーケティング」の話をすると、すぐに「PR」の話だと勘違いします。「PR」とは、自分たち のやり方は変えないままで、どれだけ多くの人に自分たちを知ってもらうかという活動。
・6頁・9/11/2023 7:20:37 AM
・一方の「マーケティング」とは、自分の商品の中身を作り変えるということです。顧客需要がどういうところにあって、それを取り込むにはどうしたらよいかという「戦略」に立ち、根本から事業を見直すのです。ですが、顧客から発想して戦略や商品を作変えることなど考えたこともない、「地元のボスキャラ」に支配された有名観光地は旅行代理店と一緒になって格安パッケージツアーで客をさばく、という発想から抜け出せません。せっかく在的に素晴らしい素材を持ちながら、マーケティングの不在によってそれがいかされていない観光地が、それこそ山のようにあります。
・もうひとつは、「観光は地域を豊かにするための手段である」「地域全体が豊かにならないと、観光地としては長続きしない」という視点が欠けていることです。観光業はビジネスですが、「観光ビジネス関係者」だけの視点で考えると必ず先細りしてしっぺ返しにあいます。 観光は、その地域にいる人たちが幸せに生きていくための手段です。 地域が衰えて無人になっても観光事業者だけは生き残れる、というようなことはありえません観光事業者自身が地域を豊かにするという意識を持たなければいけないし、地域の人も観光事業者ばかりにやらせないで自分たちで積極的に関わらなければいけない。多くの観光地には、そうした連携が根本的に欠けているのです。
・7頁・
・中国人の「爆買い」は、ごく一部の店や企業の売上を一時的に増やしただけでした。しかもよそから仕入れたものを売っているだけなので、その売上もわずかなマージン以外は地域の外に出て行ってしまう。最近の観光を巡る論議を聞いていると、そこを気にしていない、客数が増えれば満足、という安直なものが多すぎます。国の観光振興策も、鉄道・航空会社、大手ホテルチェーン、リゾートチェーン、免税店の資格を持っているドン・キホーテなどの小売店、大手旅行会社などの視点に引きずられすぎではないでしょうか。観光を通じていかに地域を豊かにしていくかという、住民側の視点が足りないのです。
・自社の利益しか考えない観光業界の体質は、「正直者がバカを見る」「努力するものが損をする」ケースを多々生んでいます。何の努力もしないまま、中央から降ってくる口を開けて待っているような「ボスキャラ」たちが大きな顔をする一方、地道に地域を良くしようと活動している新参者が白い目で見られるような構図があちこちにあります。せっかくの新しい試みが、こうしたボスキャラたちに潰される事例を、私はたくさん見てきました。
・8頁
・そうした事情は充分承知の上で、山田さんはこれまで、地道に観光地の再生や活性化に尽力されてきました。
・私が山田さんを本当に凄いと思うのは、日本の観光地の現実が、彼が一〇年以上前から言っていた通りになってきていることです。彼のアドバイス通りにやったところにはお客さんが来ているし、やらなかったところには誰も来ない。
・ ひとつ例を挙げましょう。「Mt.6 (マウント6)」という、山田さんが仕掛け人の一人となって出来たスキーリゾートの連合体の勉強会でのことです。Mt.6は、日本六つの代表的な老舗スキー場が「リゾート文化の創造と継承」を誓い合い、将来に向けてお互いが切磋琢磨していこうという有志の連合体で、野沢温泉・蔵王温泉・草津・ 白馬八方尾根・妙高赤倉温泉・志賀高原が入っていました。
・この場で山田さんは、「スキー場の価値を山岳リゾートとして高めれば、外国人スキーヤーがたくさんやってきて長期滞在します。それに向けた体制作りをしましょう」と言い続けていました。私は講演会でお説教するだけですが、山田さんは現場のコンサルティングもしていて、個別の企業や団体に対しても実に細かく指導されていた。それから一年経ち、そのとき真面目にやっていたところと、そうじゃないところでは、外国人の集客に極端に差がついたのです。
・9頁・
・うまくいったところのひとつが野沢温泉です。野沢温泉のスキー場は、もともと村営でやっていました。だから、経営を改善しようとするインセンティブが働きにくかった。スキーブームにこだわりすぎてスノボを禁止にしたりするなど、実際にゲレンデを利用する人たちの需要に向き合わない施策もいろいろとやらかしていました。 当然、お客さんは増えず大赤字を計上、それが村の財政を圧迫していました。要するに、いつ潰れてもおかしくない状態だったのです。
・そのような状況の中、地元有志が主導する形でスキー場経営は民営となり、やる気のある若手が中心となって、外国からのお客さんがたくさん来る「インバウンド」を取り込む活動が少しずつ広がり始めました。 そして、これまで野沢温泉には無かった外国人向けのサービスを提供するお店や宿が増えたのです。
・地域振興は合意形成と共に連携し活動が大事で、何事も一気には変わりません。野沢温泉の外湯文化や道祖神祭りなどの本質的な価値を活かしつつ、徐々に外国人向けの受け入れ体制を変えていく道をとったのです。
・10頁
・私の実体験を一つご紹介します。土日が講演でつぶれてしまう生活で年に一、二回しかスキーに行けないのですが、二〇一四年に、無理に時間を作って野沢温泉に半日だけスキーに行ったのです。飯山駅でタクシーを拾い、運転手さんに「最近どうですか?」 と聞いたら、「ああ、最近は外人さんがいっぱい来ますよ。外人さんは大体二週間ぐらい滞在しますね」と話していました。
・この「外人さんが来て二週間ぐらい滞在する」という話は、まさに十数年前に山田さんがMI.6で各地のスキー場関係者に熱っぽく予言していたことなのです。しかし、当時の反応の多くは、正直「はあ?」といった感じで、一部の若手を除けば「そんな話があるわけない」と顔に書いてありました。ところが山田さんは、「外国人の長期滞在に値するネタは充分にある」と断言していた。日本らしい街並みがあって、温泉があって、素晴らしいスキー場がある。欠けているのは、外国人がリゾートに期待する「夜の賑わい」や「その地ならではの体験」など、スキー以外の滞在中の楽しみ方だけ。
・つまり、それらを用意できれば外国人が長く滞在してくれるようになる。だから、せっかく来てくれたお客さんを旅館の中に閉じ込めるのではなく、もっと街の中を歩けるようにする工夫が必要だ、と。
・11頁・
・豪州を中心とした外国人スキーヤーたちが日本のスノーリゾートに求めているものを理解し、スキーそのものの楽しみ方とスキー以外の滞在中の楽しみを的確に提供出来るようになったことで、野沢温泉はスキー場から「日本のスノーリゾート」へと大きく変わったのです。その結果、今では「野沢温泉は外国人が二週間くらい滞在するところで「ある」という認識を、飯山のタクシー運転手ですら持つようになったわけです。
・野沢温泉のケースを見るにつけ、「世の中、変わるときは変わるな」ということを強く実感するのですが、今となっては、最初に山田さんの話を聞いて「はあ?」と思った人も含めて、自分たちの努力と世の中の流れで野沢温泉はこうなったのだ、と思っているに違いありません。もちろん、野沢温泉の関係者がものすごい努力をしたのは事実で すが、その「青写真」を示した山田さんの功績は、恐らく今となっては多くの人が忘れているでしょう。ここが、彼の「ルパン」たるゆえんです。
・一方、野沢温泉のすぐ近くには志賀高原という、国内屈指の有名スキーエリアがあります。しかし、志賀高原には外国人があまり来ていない。志賀高原と同じ山ノ内町内の地獄谷野猿公苑には「温泉ザル」がいて、英米人の超人気スポットになっています。
・12頁
・その高原の上り口にある渋温泉も、日本情を強調してそこそこ頑張っている。しかし、その上にある志賀高原の外国人誘客は大きく出遅れました。なぜそうなってしまったのかそれは、先程申し上げた「マーケティングの不在」によるところが大きいのです。
・志賀高原でも、野沢温泉と同じように山田さんがMt.6主催の勉強会を仕掛けていました。ところが、地元に君臨していたボスキャラに改革の芽を潰されてしまった。彼は、山田さんの勉強会に参加していた若手のホテル、旅館主に対して、「お前、あの会に行ったのか」と直接的な圧力をかけた。しかも、町長の政敵が観光協会長だったこともあり、町の余計な政治的な問題まで引きずる。
・そうなると、若手経営者も身動きが取れなくなり、やる気もなくしていくことで活動が一気に停滞、その結果、志賀高原 Mt.6からも脱退しました。それから五~六年がたって、インバウンドブームが起き始めたわけですが、志賀高原はそのブームに対応するための準備を充分にできていませんでした。しかも、若手経営者に圧力をかけていたそのボスキャラが経営していた観光関連企業自体も、その後に倒産してしまったのです。
・志賀高原は一例に過ぎません。こういう滅茶苦茶な話はそれこそ日本中にありますし、こういうボスキャラは全国各地にいる。比喩的に言うと、半沢直樹の敵みたいな人です。
・13頁・9/11/2023 7:54:59 AM・
・サラリーマンなら「一番上までいかないけど邪魔だけはする重役」みたいなタイプですが、地方では「同族の二代目」の中にこのタイプが多い。新しいものにはアレルギー反 応を起こし、権力を保持できるだけ保持しようとして、それに耐えられなくなり最後に全部ぶっ壊す。こういう人たちには、潜在的に破滅願望みたいなものがあるように思えてなりません。一方で、すごく革新的かつセンスがいい人がいるのも同族の二代目が多いので、この見極めにはいつも苦慮しています。
・二〇二〇年に東京へのオリンピック・パラリンピック招致が決まり、中国人の爆買いが注目されたり、訪日外国人の数が想定された二〇二〇年より四年も早く二〇〇〇万人突破が確実になったりと、インバウンドのパワーが注目される状況になってきています。それ自体は望ましいことでしょう。ただ一方で、「日本は潜在的にすごい力を持っているのだから、適切な「おもてなし」さえすれば、熱っていても外国人がたくさん来てくれるんじゃないか」というような、と一体になった甘い考え方も強まっている気がしています。日々、地方再生のために日本中を飛び回っていると、ダメな観光地は ど、そういう期待に包まれている。
・14頁
・しかし、現実はそんなに甘いものではありません。そこで本書では、山田さんと一緒に、敢えて「日本の観光のダメなところ」、逆に言えば「直していくべきところ」はどういう部分なのかを、具体的に考えてみることにしました。ことの性質上、実際の観光 地への言及も多くなりましたし、厳しい指摘もありますが、我々の目的は批判することではありません。変えるべきことは変え、地域の付加価値をあげ、ひいては日本全体の 付加価値をあげていくことにあります。関係者の皆様には、ご理解頂ければ幸いです。
・本書は二部構成になっています。第一部が、観光のあるべき姿についての山田さんの論考です。本来、観光の仕組みはどのように作り上げるべきなのか、資源のない欧州の小国であるスイスが莫大な付加価値を生んでいる仕組みは何なのか、日本に足りないことは何なのか、それでもうまくいっている観光地があるとしたらどこなのかなど、ご自 身の体験も交えて具体的に語ってもらっています。
・第二部は、その第一部の考え方を踏まえた上での山田さんと私の対談です。 二人とも日々、日本国中で地域振興の仕事に加わっていますので、現実が理想通りにはいかないことは熟知しています。この第二部では、我々二人の経験と共に実際に見聞きしてきた
地域の現実を「ぶっちゃけ」で語りました。「地域創生」 「観光振興」というキレイな言葉の裏側には、一筋縄ではいかない現実があるのですが、どんな場所にも希望を持って 頑張っている人たちはいます。良いも悪いも含め、できるだけ本当の姿を描くように努力しました。
・14頁・9/11/2023 8:12:15 AM
・
・1,観光立国のあるべき姿・山田圭一郎・
・第一章 ロールモデルとしての観光立国スイス・24頁・
「非日常」よりも「日常」を2023年10月9日 8:22:13
・私が住んでいるスイスのツェルマットは、秀峰マッターホルン、スイス最高峰モンテローザ(四六三四m)を筆頭に四〇〇〇mのアルプスの名峰に周囲を囲まれた、世界有数の山岳リゾートの一つです。また、ガソリン車の乗り入れが禁止された「カーフリーリゾート」としても世界的に有名で、村の中を馬車とマッチ箱を横向きに立てたよう 形をした電気自動車が走り回っています。
カーフリー・リゾート | スイス政府観光局 (myswitzerland.com)
・スイスのほぼ最南端に位置し、国境の山を 越えればイタリア・チェルビニアで、チューリヒやジュネーヴ、イタリア・ミラノから移動時間(約三時間三〇分~四時間)はほぼ同じです。
・国際空港や都市部からは遠く、地理的には遠隔地と表現した方がよいでしょう。カーブリーリゾートである為、自動車では隣町までしかアクセスできず、マイカーによる旅行者はそこからシャトル列車に乗り継ぐ必要があります。
・25頁・
・このように地理的に不利な条件にもかかわらず、人口約五七〇〇人の小さな村ツェルマットには年間約二〇〇万泊ものお客様が訪れます。滞在されたお客様の満足度はきわめて高く、七割以上のお客様がリピーターになるほどです。リピーター客の多くは毎年決まった季節に家族でバカンスを楽しみ、帰り際に翌年の宿を予約していかれる方も少なくありません。
・地域全体でリピーターを増やすために進歩と進化を続けているという意味では、観光・リゾート地としては世界でもトップレベルであると言えるでしょう。
・アルプスの谷間にある小さな村が、なぜリピーターをそこまで獲得できているのでしょうか? 雄大なアルプスの山々や氷河、絶景を堪能できる登山鉄道、本格的なスキーやトレッキングのコースなどは、もちろん他の場所にはない重要な観光資源だと言えます。しかし、いかにマッターホルンの望が素晴らしくても、お客様はそれだけで二度、三度と足を運んでくれるわけではありません。
・むしろ物見遊山の観光ならば「美しい景色は一度見れば十分」と感じる方も多いはずです。多くの人々が毎年この村にリビートして来ている理由として「美しい景色」だけでは説明が成り立たないのです。では、どうしてツェルマットは飽きられないのでしょうか?
・26頁・9/26/2023 8:50:58 AM・
・最大の理由は「この地に住む人たちが地域に対して愛と誇りを持ち、心から楽しく豊かに暮らしている」からだと、私は考えています。アルプスの自然景観にしっくり溶けこんだ家並みと窓辺に飾られた季節の花々を、いつも清掃されている清潔な通り、静粛な空間、様々なスポーツやアクティビティを楽しむ地元の老若男女ツェルマットの住民は長い月日をかけて、何より自分たちにとって住みよい環境を整えてきました。
・村のどこに目を向けても、地域に対する住民の愛情と意識の高さがはっきりと伝わってきます。いち早く燃焼燃料機関を使った自動車の乗り入れを規制したのも、他の山岳 ゾート地との差別化というマーケティング上の理由からではありません。自然と共生伝統的な生活を守り、次世代にもっと環境を良くして伝えたいという住民の真剣な思いが理由です。
・住民の生活満足度を満たすことを最優先して地域を育てていくと、住人の表情や態度はごく自然に生き生きしてくるものです。生活の中に本質的な豊かさが溢れているから、訪れた人は「こんな場所なら自分も住んでみたい」と感じ、何度も足を運んでくれる。そこにあるのは、画一化されたテーマパークのような「非日常」の世界ではありません。
・アルプスの風土と調和したツェルマットならではのライフスタイルであり、他の地域から見れば魅力的な「異日常」の空間なのです。
27頁・
・リピーターを獲せよ
・そもそも人はなぜ旅をするのでしょう。よく耳にするのは、「日常では味わえない刺激を味わうため」という答えです。雄大な自然、古い遺跡、美しい街並み、温泉、神社仏閣・・。たしかに「知らない世界を見てみたい」という素朴な動機があってこそ、人は旅の第一歩を踏み出します。日本には昔から「物見遊山」という言葉がありますが、 非日常への憧れは観光の一つの本質です。
・しかしその一方で、物見遊山だけに頼った観光地はいずれ必ず飽きられてしまうというのも事実です。例えば富士山を見た外国人が、もう一度富士山だけを見るために訪日してくれるでしょうか?よほど個人的な思い入れでもない限り、そういうケースは稀でしょう。海外からわざわざやって来た旅行者に日本という場所へのリピーターとなってもらうためには、彼らがまた戻って来たくなる別の工夫が必要です。
・どの様なビジネスであったとしても、顧客(=ファン)の存在は決定的な意味を持ち ます。そのブランドの価値を認めて、長期にわたって買い支えてくれる人の存在無しには安定的な収益は望めません。
・28頁・9/11/2023 9:12:45 AM
・このことは観光地においても事情は同じです。その場所のファンとなり何度も訪れてくれる顧客を獲得できなければ、観光地としての持続的運営は成り立ちません。つまり一通性の「非日常的なレジャー」を売り物にするだけでは、観光産業は地域を支える柱にはなりえないのです。
・ここで再び、本質的な問いかけが浮かんできます。顧客とリピーターを生みだし、観光・リゾート地として何度も選ばれ続けるためには、一体何が必要なのでしょうか?
・本当の意味で旅行者を惹きつけ、その土地のファンとなるのは、名所旧跡のような観光資源だけではありません。重要なのは自分たちとは異なる豊かな「日常性(ライフスタイル)」です。その土地の人たちが生き生きと暮らしていれば、訪れた人はきっとその理由を見つけたくなる。風土に根差した生活様式、独自の食文化、季節ごとの行事、その地の環境が育んだ産業。二回、三回と足を運べば、その度にまた違った表情が見えてくる。その深さを知れば、決して飽きることはありません。
・ツェルマットの人たちは、アルプスという「非日常」要素に加えて、自分たちのライフスタイルがそのまま観光資源になるような「異日常」的な地域づくりを、長い時間と手間をかけて築いてきました。 住民が主体となって作りあげたその仕組みには、周到な工夫と運営ノウハウが隠されています。住民のQOL(Quality Of Life:生活の質)が
上がるほど観光・リゾート地としての魅力も増し、さらなるリピーターが獲得できる。そういう好循環のシステムを作り上げてきたのです。
・29頁・
・そのフェルマットに私が住み始めて、三〇年近くになります。最初はスキーガイドと観光局のインフォメーションカウンター業務から始まり、一九九二年には自身で「JTIC SWISS (日本語インフォメーションセンター)」を立ち上げました。ここでは日本からのお客様向けに現地発のツアーや個人ガイド・通訳を手配したり、ボランテ イアで旅の相談に乗ったりしています。
・また、現役のスキー教師・ガイドとして働くかたわら、近年は日本各地で観光振興や地域再生、活性化等にも関わるようになりました。 今は少なくとも毎月一度の割合でスイスと日本を往復する生活になり、年の半分をツェルマット、残りの半分を日本で過ごしています。 国際線・国内線を合わせたフライトの回数は年間で二二〇回以上、外泊が一八〇泊前後というところでしょうか。
・二〇〇五年には当時の内閣府、国土交通省、農林水産省(現在は観光庁が担当)が選定する「カリスマ百選」に、唯一の海外在住者として選ばれました。
・30頁・9/11/2023 5:53:17 PM
・その際に付けていただいた「世界のトップレベルの観光ノウハウを各地に広めるカリスマ」という名称がどこまで当たっているかは、自分では分かりません。ただ、今後の日本は、少子化と高齢化と共に生産年齢人口(一五歳~六四歳)の減少で国内市場の急速な縮小に直面することになり、従来の製造業を中心とした稼ぎ方だけでなく、域外から外貨を獲得する観光産業にもっと力を入れざるを得なくなるのは明らかです。その際、自分が身をもって学び、経験してきた観光先進国スイスやヨーロッパのしくみは、少なくとも一つのロールモデルになるはずだと私は考えています。
・常に生き残るために必死な国
・なぜスイスがロールモデルになるのか。それは、スイスが歴史上ずっと、「生き残るために必死だった国」であり、今もなおそうであるからです。
・ヨーロッパのほぼ中央に位置するこの国の原型が生まれたのは、一三世紀末頃。今でこそ国際的に裕福なイメージが浸透していますが、もともとはオーストリア・ハプスブルク家の圧政に長年さらされ、小さな集落単位で少しずつ自治を獲得してきた連邦国家です。面積は四万一〇〇〇平方キロメートルと九州とほぼ同じです。その中にさまざまな民族、言語、文化等が複雑に入り混じっています。
・31頁・
・公用語だけでもドイツ語、フラシンス語、イタリア語、 ロマンシュ語と四つも存在する典型的なダイバーシティ国家です。
・日本と違って海もなく、 国土の約七制はアルプスの山岳地帯です。 めぼしい天然資源も見当たりません。しかも地政学的にはドイツ、オーストリア、フランス、イタリアなどのヨーロッパ列強に四方を囲まれています。平野が少ないため大規模な農業にも工業にも向いていません。このような厳しい環境の下、住民たちはずっと豪雪や土砂崩れな どの自然災害に悩まされながら、必死で生き延びてきました。
・ほんの百数十年前までスイスという土地は、ほとんど誰からも見向きもされないようなヨーロッパの辺境地にすぎなかったのです。このような歴史的背景もあって、スイスでは今なお、飢えずに食べていくためにはどうするのかという地域経営に対する危機感が非常に高いと言えます。
・そもそも自治体の枠組み自体が「共同体としてどうやって生き残っていくのか」という死活問題から出発しているため、その構成員である住民一人ひとりのレベルで危機感と責任意識が共有されています。自立していくことが原則であって、困っても誰も助けてくれないという感覚が身に染みているため、日本の自治体のように国からの補助金に頼ったり、地元に根付かないような(したがって、いつ出ていってもおかしくないような大企業の工場や施設を誘致するという発想もありません。
32頁・
・スイスの人たちと関わっていて常に感じるのは、とにかく自力で生き延びるという強烈なサバイバル意識です。日本では「永世中立国」「平和主義」など博愛的なイメージ が強い国ですが、その真剣さにおいて、彼らは日本人の想像をはるかに超えて貪欲かつしたたかです。
・外部からの補助に頼らず、自分たちの力で食べていくには、何よりまず地域内の経済自立させる手段が必要になります。それも一過性のものではなく、継続的に利益を生み続けるしくみでなければ意味がありません。町の中に雇用を生みだし、地域内におけるモノやサービスの取り引きが活性化することで、様々な分野の業者間でお金が加速度的に回り続けるしくみがあってこそ、共同体としての経済的な自立が可能になります。
・資源に恵まれず、国内市場も決して大きいとは言えないスイスの人たちにとって、観光産業はまさにその手段の一つなのです。
・ツェルマットに限らずスイスでは、どんな僻地の小さな村にも観光局があります。これはスイス人が観光というものを単なる自治体のPR活動ではなく、「雇用を作りだし、外部からお金を稼ぐ地域経済の柱」だと捉えているからです。
・33頁・
・めぼしい産業のない土地から観光のしくみがなくなってしまえば、仕事は激減し、経済活動はシュリンクして、人はそこで暮らしていけなくなります。そうすれば結局、自分たちにとって一番大切な「地域の持続可能な自立」そのものが危ぶまれてしまう。そんな悪循環の怖ろしさを彼らはよく理解しているのです。
・英国富裕層によって「発見」されたアルプスの山々
・もう少し詳しく、スイスが観光大国になるまでの歴史を振り返っておきましょう。
・今でこそ世界中からたくさんの旅行者が訪れていますが、先ほども述べたようにスイスは長い間、ヨーロッパ内の辺境地に過ぎませんでした。 外部から人が訪れるようになったのは、一九世紀も半ばになってから、きっかけはイギリスの貴族階級の間で「登山」が行ったからだと言われています。
・当時の大英帝国は、地上の四分の一近くを支配し、莫大な富を一手に集中させた絶頂棚にありました。史上最強と言われた海軍力を背景に、工業、貿易、海運、通信から金融に至るまであらゆる分野で圧倒的な優位を誇り、「世界の津々浦々、イギリスの力が及ばぬ港はない」と噂されたほどです。
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・もはや切り拓くべきフロンティアがなくなった時、お金がたっぷりあって、かつ冒険心に満ちた貴族たちの関心は自然に海から山へ向かいました。彼らの名声と征服欲を満たす新たな対象として、いわばアルプスが「発見」され、四〇〇〇m級の山々の初登頂が競われたのです。
・それまで放牧くらいしか生きる手段がなかったアルプスの人々にとって、これは千載一遇のチャンスでした。ときには雪崩や土砂崩れで集落が全滅するほど厳しい環境を生き延びてきた人たちですから、今の日本とは真剣さの度合いが違います。ロンドンとい大都会で贅沢を満喫してきた異国からのお客様を、一体どうやってもてなせばいいのおそらく必死で知恵を絞ったはずです。
・答えは、意外なところに見つかりました。きれいな水や空気、降りそそぐ陽光、新鮮 なミルクやチーズ、 生ハム 当時の公害とスモッグの街からやってきたイギリス人たちを一番喜ばせたのは、都会では決して得られないゆったりした時間、自然と調和し素朴なライフスタイルそのものだったのです。
・かくして英国の富裕層がアルプスを「発見」したのと同じように、アルプスの住人もまた、自分たちが本当に誇るべき価値を「再発見」したのです。
・35頁・
・当時のスイス人は、付け焼き刃の贅沢さを装うのではなく、ありのままで自分たちにできる精一杯のもてなしを考えました。今風に言うと「ライフスタイル自体を観光資源として商品化した」わけです。思うに、これは卓見でした。ここには冒頭で述べた「異日常」への志向がすでにはっきり現れています。また初めて迎えたお客様がイギリスのエリート階層だったことも、彼らにとっては幸運だったでしょう。当時、世界で最も進んだ知性と感性、教養を持つ富裕層と接する中で、サービスする側もその質を高めることができたからです。
・目先の利益を追わず、「ハコモノ」を作らない
・イギリスの貴族によりアルプスの四〇〇〇m級の山々が続々と登頂され、その後、バカンスを楽しむ長期滞在型の山岳リゾート地になったことで、観光・リゾート地としてスイスの知名度は短期間で広がりました。誰も見向きもしなかった山間の土地が、美しい山岳リゾートとして世界中に知られるようになったのです。
・アメリカの文豪マーク・トウェインもツェルマットが大好きで、訪れた時の記録が残されています。常宿はホテル・モンテローザで、山岳ホテルのリッフェルベルクへ赴く際には彼の執事がコックたちを含め、約一〇〇人のスタッフを集めたことであまりにも同行者が多くなり、テントマット等も全て持参したそうです。
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・やがて利用収入による利益が地域に蓄えられ、山岳リゾートとしてのインフラも徐々整備されていきます。スイス人に先見の明があったのは、ここで目先の利益に走らず、どうすれば都市生活者であるお客様にもっと喜んでもらえるか、また来てもらえるかを真剣に考えたことでした。
・やみくもに施設を作って人を呼び込んでも、それが地域の本当の魅力を損なってしまったら元も子もありません。「アルプスの山々」という素材を最大限活用しつつ、自分たちのライフスタイルも維持するにはどうすればいいのか。彼らはなけなしの資金を出し合い、共同体に利益をもたらすものを慎重に選びながら少しずつ投資を重ねていきました。例えばツェルマットでは、最初のホテルは個人が村内に建てましたが、二軒目は一八五三年に住民たちの手でマッターホルンが間近に見える標高二五八二mの山腹に「リッフェルハウス」という名で建築されました。その後、今でもツェルマットのフラッグシップホテルとして有名な五ツ星の「グランドホテル・ツェルマッターホフ」をました。当時のお客様である富裕層が絶対に泊まりたくなるような眺望の良いロケーションと最高のサービスで「非日常の空間」を提供する。何気ない宿泊施設の立地からも、当時の人たちが必死で思い描いた戦略が見てとれます。
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・その上で山岳鉄道やロープウェイを敷設して、女性や子供も楽しめるように安全なハイキングコースが整備されていきました。実際、この村の成り立ちを知れば知るほど、住民が長い時間をかけて積み重ねてきた努力と工夫が浮かび上がってきて、今でも驚かされます。もちろんハード的な設備への投資だけでなく、人材の育成にも力を注ぎました。再びツェルマットを例に取ると、当時の人たちはまだ満足な宿泊施設もない段階で、お金を出し合って地元の青年を都会の学校に送り出しています。
・そうやって最新の経営手法と都会的なセンスを身に付けさせ、戻ってきたところでホテルの経営を任せてみる。こうやって、ハードだけでなくソフト面の近代化も進めていきました。同じようなエピソードは、ツェルマットだけでなくスイス中の観光・リゾート地に山のようにあります。
・このようにスイスの観光産業は、まず何より地域の生き残り戦略としてスタートしまた。「観光=サバイバルの手段」というはっきりした目的意識があるため、自分たちの価値(外の人を呼び込む魅力の本質)を維持することや利活用することにおいて、彼らはきわめて意識的です。また、観光関連事業者だけでなく地域内の幅広い事業者に利益を還元するために、外資本受け入れにも慎重です。
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・実際、チューリヒやジュネーヴ、ベルン、バーゼルなどの大都市は別として、スイスの地方で大資本のグローバルホテルチェーンが入ったところや地域のフラッグシップに外資系ホテルがなっているところはほとんどありません。資本や経営だけでなく、多少コストが高くついても必要な資材はできるだけ地元で調達し、住民がお互いに支え合う。このような手法によって、スイスは観光・リゾート地としても独自性とクオリティを保ってきました。
・国そのものをブランド化
・さらに重要なのは、スイスの人たちが観光だけでなく、自国の産業構造そのものを高収益体質に作りかえてきたという事実です。国内人口が約八二四万人と市場規模が小さしかも立地や資源にも恵まれないという悪条件の下で一定のビジネス水準を維持するためには、観光・サービス業だけでなく製造業においても付加価値を高め、顧客を増やしていくしかありません。今でこそ当たり前の認識ですが、彼らは早くからそのことに気付いていました。
・日本でも有名なヴァシュロン・コンスタンタン、パテックフィリップ、ブレゲ、オーデマ・ピゲなどの高級時計メーカーは、その最たる例だと言えるでしょう。
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・物量で勝負せず、職人技で最大限の手間ひまをかけてモノとしての価値を高めています。それぞれ美意識の高いユーザーのみをターゲットとし、決して価格競争に踏み込まず、特定製品ではなくブランドそのものに価値を認めてもらう囲い込み戦略。これら有名メーカーの方針は、どれを取っても富裕層やリピーターを最重要視するスイスのビジネスのあり方に通じています。
・精密機械だけに限りません。 高級チョコレートのような食品から、製薬、金融、各種サービス業まで、規模よりも利益率を重視する高収益体質は、どの分野にも共通しています。たしかに一〇〇〇円の時計を一〇〇〇個売っても、一〇〇万円の高級時計を一個売っても、見かけの売上額は変わりません。しかし、実際に手元に残る利益は後者の方がずっと大きくなります。市場も小さく資源にも恵まれない国にとって、どちらのやり方が適しているかは明らかです。
・注目すべきは、このような「高品質・高付加価値体質」と共に質的向上を続ける経営体質も確立したことです。スイスには「スイス・クオリティラベル」という品質保証制度があるのですが、これは調査時のみの評価ではなく、お客様の満足度を高めることを前提に日々経営努力を続けている企業や組織ほど評価されるシステムです。
・40頁
・ミシュラン並みに覆面調査もあり、評価にあぐらをかき続けることはできません。現在、Q1か QⅢまでの三段階あるのですが、お客様から見ても企業努力が可視化されたとてもわかりやすい評価制度になっています。
・スイスのあらゆる企業や地域が弛まない質的向上を目指し、あらゆる商品、製品、サービスの品質の良さを通じて、お客様や市場との信用・信頼関係を構築しています。この関係を保持していることがスイスブランドを担保しているのです。多くのスイス製の商品や製品にはスイスフラッグがアイコンとして付いています。国旗そのものがブランドアイコンになっている国はスイスぐらいではないでしょうか。それだけ国全体で戦略 的なブランド化を進めていることもわかります。そして、その根底にある強さがスイスのQ0Lなのです。
・スイスを訪れた人たちは、現地で質の高いサービスを受け、質の高い商品、製品を購入し、国民の豊かなライフスタイルを身近に感じてそれぞれの国へと帰ります。そうやって好ましい評判が世界中に広がるほど「スイス=高品質」という印象が醸成され、モノやサービスに対する信頼度が高まります。その結果、上述した通り「赤地に白十字」国旗印が入っているだけで、スイス製の商品、製品は良いものであると信用され、たとえ値段が高くても売れるようになるわけです。
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・スイスではあらゆる業種が観光産業と連携したマーケティングを行っています。いわば高品質と環境の良さなどの相乗効果によってブランド価値を高めてきたのです。それを長期間きわめて意識的に徹底することで、グローバルな価格競争が激化する現在でも、国全体で高い収益性を維持しているのです。その結果として、国際評価としてもスイス は長年にわたって、国際競争力、技術革新力、国際観光競争力等で世界一の地位を保ってきているのです。
・このようにスイスでは、あらゆる産業が質的向上を続けることで「国そのもののブランド化」に成功してきました。その確固たるブランドと継続したマーケティングによってモデルとしてのリピート効果を最大限に引き上げ、国全体で世界中からCLTV (顧客生涯価値)を 得る努力をしているのです。
・この構図は、自治体レベルでもしっかり機能しています。どんな小さな村や町でも、ブランディングとマーケティングは地域経営の柱に位置付けられています。しかもそこでは、住民生活の満足度が高まるほど地域のブランド価値も高まり、結果としてリビーターの数も増えるという好循環のシステムが確立されているのです。
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・日本の地がダメになった理由
・ところで、観光立国をしている日本の現状はどうでしょうか。
各地を回って再生のお手伝いを続ける中でいつも痛感するのは、観光ビジネスに携わるのです。経営感覚の無さと「食うに困っていない人」が多いことが、危機意識を鈍らせていると思えてなりません。
・もちろんシビアな現状を嘆く声はたくさん耳にします。ただ、そういう方が問題の本質を見据えているとは限りません。むしろ現実を直視せず、お客様が減った理由を景気や他のせいにしてしまう人が少なくありません。
・たしかにバブル崩壊から二〇年以上で国内旅行の市場規模は大幅に縮小しました。しかし、他の娯楽産業と比べてみても、その落ち込み方は突出しています。例えば二〇〇八年のリーマンショックは多くの業界に深刻な影響を与えましたが、こと観光については必ずしもそこで大きく落ち込んだわけではありませんでした。
・より長期的に検証すると、国民一人あたりの宿泊数・消費額ともに、九〇年代の初頭をピークにずっと右肩下がりを続けています。要はこの二〇年間で、娯楽やレジャーの選択肢としての国内旅行はお客様から見放され続けてきた。であれば日本の観光関連事業者は、景気のせいにせず、そのわけをもっと真剣に考える必要があるはずです。
・43頁・
・日本の観光地はなぜダメになったのか?私に言わせれば、理由ははっきりしています。まず一つは、一見のお客様を効率よく回すことだけを考え、満足度やリピーターを獲得する努力を怠ってきたことです。とりわけ高度経済成長期からバブルにかけて団体客で賑わった観光地では、この傾向が顕著であると言えます。
・かつて日本の観光業界では、 旅行会社と旅館やホテル、お土産物屋、運輸業者などががっちりと手を結び、一種の利益共同体を形成していました。旅行会社が送り込んでくれる団体客にお決まりの食事を出し、いっせいに布団を敷いて眠ってもらえば、とりあえず利益が確保出来たのです。古い事業者の中には「自分たちもそうして経営努力を重ねてきたんだ」とおっしゃる方もおられます。
・しかし、あえて厳しい言い方をすれば、それは結局のところあてがわれたお客様を右から左へ捌いていただけにすぎません。たしかに作業としては目が回るほど忙しい時期もあったでしょう。しかし、その作業はお客様の満足度をとことん追求して再度訪れてもらうという、本当の意味での経営努力で はなかったはずです。夜が明けるとなるべく早く朝食を用意して、「さあ出ていってください」とばかりに仲居さんが布団を上げにくるような旅館がいまだに残っています。
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・それらはすべて事業者の都合であって、お客様の都合ではないのです。そんな扱いを受けたところに再び泊まってみようと思うお客様などいるわけがありません。
・寂れた観光にする「硬いエライ人」
・選ばれ続けるというのは、実に大変なことです。これだけ選択肢が多様化した時代、普通の「満足」ではなく「大満足」していただけない限り、お客様は二度と戻ってきてくれません。
・私が住むツェルマットでも、村内のフィールド全体を駆使し、四季を通じお客様に素晴らしい経験や体験をしてもらえるように、常に新しい工夫を考えています。リッツ・カールトンやコンラッド等の上質なホテルからディズニーランドのような テーマパークでも、サービスが世界的に評価されているところは例外なく、五段階評価 ならばトップボックスにチェックを付けてもらうためにあらゆる努力を払っています。
・残念ながら日本の観光・リゾート地のほとんどは、そういった厳しいリピーター獲得競争を知らないまま、ひたすら一見客だけを相手に商売を続けてきました。特に高度成長期からバブル期、近年までずっと一泊だけの団体客メインでやってきたために、せっかく二泊三泊連泊を希望している個人のお客様に対して、二泊目以降の夕食を出せなくなってしまう旅館やホテルが未だに存在しています。
・45頁・9/12/2023 7:18:26 AM・
・もしくは、そういう個人客に 団体用のビュッフェスタイルの食事でごまかしています。
・経営的に見ればどう考えても長期滞在者の方がありがたいはずなのに、そういう一番大切な顧客を満足させるノウハウを持っていないのです。このことは、日本の観光業界において「リピーターあってこそのサービス業」というビジネスの常識すら共有されていない証拠と言えます。
・昔々、画一的な団体旅行が主流だった時代は、それでも問題なかったかもしれません。しかし、これだけ価値観が多様化し、インターネットでいくらでも情報が得られる時代、その手法が通用しないのは明らかです。実際、宿泊者数ではなく消費額ベースで見ると、団体客のシェアはすでに全体の約一部です。つまり業界の売上の約九割が、今では個人によって支えられています。
・しかし、そういう現実は理解していても、古いタイプの事業者というのは自らマーケティングをしてきた経験もありません。そもそも自分たちの魅力について真剣に考えたこともないため、どういう層のお客様にどのような商品提供や情報発信をすればよいかも分からないのです。その結果、やみくもな価格競争に巻き込まれてしまうケースが多くなってしまうのです。
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・さらに困るのは、寂れた観光・リゾート地ほど、そういった老舗旅館や大型ホテルの営者が地元観光協会や観光連盟のトップや役員などに君臨していることです。
・既得権にどっぷり浸かった古の中には、自分たちの無策を棚に上げて、お役所から予算を引っ張ることしか頭にない人も多々います。 観光産業を狭い枠でしか捉えられず、社会全体の中に位置付けることができないため、お客様から見放された真の原因を見抜けていません。
・中には「景気が上向くまでじっとがまんしていればまた浮上できる」と か「そのうち、増え続けている訪日外国人の団体を旅行会社が連れて来てくれる」と本気で思っている人もいます。最近の悪い傾向としては、訪日外国人旅行者が劇的に増えていることで、一部の宿泊事業者に新たな勘違いが起きつつあります。
・決して彼らの必死の願いが叶ったからお客様が増えているわけではないのですが····· 彼らは近い将来に同じを踏むことになるでしょう。その頃には経営者が世代交代していることに期待したいと思いますが、それまでに倒産や廃業に追い込まれていないとも限りません。
・「観光でまちおこし」の勘違い
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・日本の観光・リゾート地がダメになったもう一つの理由は、住民の生き生きしたリアルな生活がお客様には全く見えず、体験する機会もなかったことです。
・これまで多くの事業者は、目先の業界利益だけにとらわれて、本当に魅力ある地域づくりには取り組んできませんでした。行政や観光協会主導でイベントを企画したり、いわゆるハコモノの建設を働きかけることはあっても、幅広い業種と連携して地域全体に 利益をもたらすような発想は希薄でした。それではいつまでたっても他の産業事業者や住民の意識は高まらず、訪問者にもう一度戻ってきたいと感じてもらえるような地域へ育てることもできません。
・講演などで地方を訪れた際、まず最初に私がお話しするのは、「そもそも観光だけではまちおこしはできない」ということです。自治体の担当者から「何か派手な観光イベントを仕掛けて地域活性化の目玉にしたい」というような依頼をいただくことがあるのですが、実際はむしろ逆で、本当の意味で地域が良くならない限りは観光地としての再生もありえません。何度でも訪れたくなる「強い観光地」の基礎となるのは、そこで暮らす人たちの豊かなライフスタイルです。そこにリアリティを持たすためには地元ならではの生活文化や伝統風習、自然環境や景観の良さ、地場産業が提供する本質的な価値に裏打ちされたきめ細かな商品や製品、サービスの提供が大切になります。
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・そのためにはまず、その地域が持っている「本来の魅力、本当の宝」をしっかり洗い出す必要があり、地元が持つ哲学や思想、美学も継承しなくてはなりません。だからこそ観光関連事業者だけでなく、農林業や商工業に関わる事業者の方々やNPO、市民団体から一般住民まで、幅広い層の人々が主体的に参加しているかどうかが重要になり ます。そして、地域経営という視点から地域全体を最適化するようなドラスティック発想転換が不可欠です。
・但し、多くの人々が関わったとしても、地域に対して何の思い入れや意識も無く、全く勉強もしていない人が集まるだけでは何も起こりません逆に余計なグループワークや合意形成に時間ばかり取られてしまうことが足かせになってしまうこともあります。
・少数でも自分の頭で考えて行動出来る住民が「このままでは町全体がダメになる」と危機感を共有し、地域内のあらゆる産業事業者との連携を取り始めれば、その地域は確実に変わります。そして、長続きのポイントは「やっていて楽しい」です。辛いことだけをやっていてはダメで、本当に楽しいことがないと続きません。前向きに動き始めている地域では、観光とはまるで関係なかったお母さんたちが地元の食材を使った新メニユーを考案していたり、子供たちが町歩きツアーなどのガイド役を買って出たりしていて、これまでにない関係性の中で楽しみが生まれ、その結果ファンも増えています。
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・もちろん、複雑にもつれ合った地域のエゴと利害の糸を解きほぐし、コンセンサスを形成するのは簡単ではありません。しかし、現場に出て、様々な当事者と膝をつき合わせてみると、その地域が本当に抱えている問題が何なのかということも見えてきます。
・住民と対話を重ね行動を共にしているうちに、その中から本当にやる気のある人たちと「将来に向けた活動を続けることが出来るようになります。そして、そのような事業は確実に稼げる仕組みとして育っていきます。こうして、どんより停滞していた町を少しでルモデルとしてのスイス地域で稼げるように変えることが出来れば、五年ぐらいの時間をかけて地域内の生産年齢人口を増やすことも可能です。何より嬉しいのは、その過程で住民が自分たちの地元に対する愛情と誇りを取り戻していくことです。
・「人手がかかる産業」を大事にせよ
・今の日本は、スイスとはまた違った意味で、本気で生き残りを考えなければならない時期に来ています。政府の政策に反して景気はなかなか良くならず、かつてないペースで少子化が進む中で、国内市場は急速にシュリンクしていきます。 その中で地方が生き 残っていくためには、かつてスイスがそうであったように外部から積極的にお金を呼び 込み、それを地域内でさせる事業者を増やし、雇用を生みだすという仕組みが必要です。
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・これまで、地方の産業振興・雇用創出というと、工場が主でした。しかし実際に大企業を誘致したからといってその地域が良くなることはありません。オートメーション化がされ、ほとんどの作業をロボットがこなしている現在、工場が地元の人たちを雇う余地は激減しています。多少税収は上がったとしても、雇用には直接結びつかないのが現実です。実際に人が働き、稼ぐことで消費も促され、税収も伸びなければ地域は存続出来ません。
・観光というのはいい意味で手間ひまがかかる産業です。旅館・ホテルの従業員からお土産物屋の店員、各種ツアーガイドまで、流行れば流行るほど人手が必要になる。産業として直接雇用に結びつくのがメリットです。また、外貨獲得と地域内のキャッシュフローを活発化させるのにも効果的です。これから先、日本がヨーロッパなみの成熟し先進国家であり続けるには、観光・サービスを重要産業と捉え、それを発展的に伸ばし、他産業へ効果的に波及させることを真剣に考えなくてはならないのです。
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・実際、グローバルな規模で見れば、観光は世界のGDP(国内総生産)の約一割を占める巨大産業です。とりわけ先進国では地域を支える重要な産業として機能しています。一方、日本のGDPにおける観光産業の割合はまだ五%以下です。私たちの国は、この分野ではかなり立ち後れているというのが現状でしょう。逆に言えば、「まだまだ伸びる余地はある」ということです。
・もちろん地域の未来を選ぶのは住民です。私がどれだけ本質的な地域経営を語ったとしても、そこに住む人たちが観光という外貨獲得手段に心から魅力を感じていなければ、絵に描いたモチにすぎません。とはいえこれからの時代、住民一人ひとりが本気で共同体のあり方を考え、時代の変化にコミットしていかない限り、地方は生き残 れません。
・これもまた事実だと思います。そして、その重要な柱として観光という手段 選ぶのであれば、最も参考とすべきロールモデルはやはり、スイス人の持つしたたかな地域経営ではないかと思うのです。
第1章終わり、2023年9月26日 15:03:58
・第2章 地域全体の価値向上を目指せ・52頁・2023年10月9日 7:26:57
・キャパシティを増やさず消費額を引き上げる
・冒頭でもご紹介したように、マッターホルン山麓に位置するツェルマットは人口が約五七〇〇人の小さな村で、都市部や空港等からのアクセスが良い場所でもありません。
・宿泊施設の規模も限られています。現在、一二〇軒のホテルがあり、ベッド数は約六八○○これ以外に「シャレー」「ホリデーアパートメント」と呼ばれるコンドミニアム型施設がありますが、その部屋数は約七〇〇〇(ベッド数は約二万二〇〇〇)です。土地が限られていて制限が掛かっているために新規大型ホテルの建設や大規模な増改築も難しく、地域全体の宿泊キャパシティはこの数十年ほとんど変わっていません。
・この小さな村に、年間約二〇〇万泊のお客様が滞在されています。単純計算でも、村の人口と同じぐらいのお客様が、連日泊まられているわけです。ツェルマットではオフシーズンに多くのホテルがメンテナンスのため休業するので、営業日あたりの実質稼働率はさらに高くなります。
・53頁・
・また二〇〇万という数字が訪問者数ではなく、宿泊者数であることが重要です。後述するように、ヨーロッパを始め世界の観光統計は全て「延べ泊数」が基本です。日本でよく用いられる「入込数(宿泊・日帰りを区別しない単純な来訪者数)」は単に通りすぎた人も数えてしまいますが、ヨーロッパでは日帰りの訪問者は基本的にお客様としてカウントされません。
・さらに注目すべきは観光・リゾート地としての収益性の高さです。宿泊キャパシティは増えていないのに、ツェルマット地域全体の売上は今でも伸び続けています。宿泊者数を増やすことで稼働率を高めることは物理的にできないので、売上を伸ばすためには、リピーターの満足度をさらに高め、お客様一人あたりの 消費額=客単価を引き上げるしかありません。
・ツェルマットでは地域内の事業者はたと同業者であったとしてもお互いが上手く連携しながら住み分け、切磋琢磨することで質的向上を図りながら個々の経営努力を続けています。その結果として全体的な売上を押し上げているのです。それぞれの民間事業者が経営努力をするのは当たり前なのですが、フェルマットには地域全体の経営を推進している組織も存在します。
・54頁・9/27/2023 7:28:12 AM
日本の観光地に欠けている集客のための「戦略」とは | 要約の達人 from flier | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
・スイスの各市町村における地域経営の基盤となっているのが「ブルガーゲマインデ」と呼ばれる組織です。ブルガーとはドイツ語で市民・住民のことです。役所や役場のような行政機関とは違う住民主体の独自組織なのですが、強いて訳すなら「住民自治経営「組織」のようなニュアンスでしょうか。
・かつてスイスの山岳地方は貧しく、満足に働ける場所がありませんでした。そこで住民同士が協力して自分たちの持つ土地や資源を活かすことで新しい仕事をつくり、地域全体の経営をするための組織として始まりました。そもそもスイスに限らずヨーロッパの地方都市には、近代以前から続く自治組織の伝統が根強く残っています。ツェルマットのブルガーゲマインデも四〇〇年以上もの歴史を有し、村の基本的な経営方針を決めるにあたっては、今でも大きな影響力と権限を持っています。
・現在でも観光・リゾート地としてのツェルマットの経営の中心的な役割を果たしているのが、実はこのブルガーゲマインデです。もちろん行政機関としては村役場の役割も大きいのですが、行政主導ではなく、官と民がそれぞれフラットな立場で地域にとって最もメリットのある方向性で運営を進めています。ブルガーゲマインデと村役場が両輪となり、地域内の幅広い業種・分野の意見を反映させ、連携も密接に取ることで地域経営を潤滑に機能させているのです。
・55頁・
・またブルガーゲマインデは、地域の共有財産 (山や森放牧地等)の維持管理だけでなく、地域全体の経済的な価値を高め、収益性を向上させる役割も担っています。ブルガーゲマインデが一〇〇%出資した「マッターホルングループマネージメントAG (株式会社)」は地域を代表する民間企業として多くの事業を展開しています。例えば、ツエルマットで一番有名なフラッグシップホテル「グランドホテル・ツェルマッターホフ」は、もともと住民が乏しい資金を出し合い、更には自らの労働力を提供してブルガゲマインデのメンバーが中心となって建設したものです。現在はこのホテルだけでなく、山岳ホテルリッフェルハウス」やゴルナーグラート山頂にある「クルムホテルゴルナーグラート」、その他にも多くの山小屋レストラン、バー、売店等を経営していまいます。
また、村内のロープウェイ・リフト等の道会社には出資という形で経営参画しています。ブルガーゲマインデそのものが直接経営に乗り出すのではなく、各会社の株を持ち、それぞれの経営に大きな影響力を持っていますが、いずれにせよ住民主体の組織運営方針を決め、地域にとっての利益を最大化させ、雇用を確保しているわけです。
・56頁・9/27/2023 10:06:04 AM
・このブルガーデン、スイスにおける地域振興のカギだと言えます。実際、日本から視察に来られた方々が一番感銘を受け興味を抱かれるのは、必ずと言っていいほど「地域経営のしくみと組織としてのブルガーゲマインデ」です。
・地域振興で重要なのは、その土地に住んでいる人が自ら責任を持って決断、実行できるしくみです。その意味では、今後の日本の観光ビジネスのみならず、地方創生時代の地域の経営を考える上でも、ブルガーゲマインデのあり方は参考になると思います。
・足の引っ張り合いを避け、地域全体の価値向上を
・ブルガーゲマインデの特徴は、幅広い住民が立場を超えて集まり、「地域の利益・利潤の最大化」と「より良い地域として将来世代へ引き継ぐ」という目的のもと、地域内連携を取る重要なプラットフォームとして機能しているところです。その根底には「地域住民の幸せと社会の豊かさを目指す」というコンセンサスがあるため、取り組みは目先だけの利害関係を超えた長期的な視点を持った創造的なものが中心になります。
・57頁・
・このような考えや価値観はブルガーゲマインデだけでなく、マッターホルングルーブマネージメントAGやツェルマット観光局、個々の事業者等、ツェルマット内のあらゆる組織団体等にも根付いている経営意識でもあります。そして、地域全体で何かを実行する時でも、必ず一致団結して方向性を見失わずに進めることが出来る理由でもあるのです。これらのことはツェルマットが長年にわたり、地域経営としてCSV (Creating Shared Value: 共通価値の創造活動を続けてきた証と言えます。
・どこでも地域全体で何かに取り組もうとした場合、必ずと言っていいほど出てくる問題が同業他社同士による足の引っ張り合いです。「自分のところにはお客様が来て欲しいけど、他のお店には行って欲しくない」という考えですが、この考えをそれぞれが持っている間は地域全体の魅力を高めることは決して出来ません。だからと言って、行政が主導する宣伝や広報のように全てを平等に扱おうとするあまり、経営努力をして素晴らしいサービスを提供しているところと全く何もしていないところを同じそれぞれが地域内で住み分けながらそれぞれのポジションを活かした経営をすることで、全体が盛り上がらなければ意味がありません。
・もちろんフェルマット内にも厳しい競争は存在します。はっきりした競合関係にあるお店も少なくありません。
・58頁・9/27/2023 10:18:38 AM
・しかし彼らは、まずは地域全体の利潤を高めないと、個々のビジネスも潤わないことをよく理解しています。
・ツェルマットで暮らしていると、地元で助け合うという意識がすみずみまで浸透しているのを肌で感じます。例えばオフシーズンにホテルを改装・改修する際も、彼らは基本的に地元の工務店以外は使いません。 そして自分たちでできない部分のみ、その地元の工務店を通して大きな建設会社に依頼するのです。また、そういう工事や公共事業の現場では新人のインストラクターやガイドが働いているのですが、彼らにとってはオフシーズンの貴重な収入源でもあるのです。以前、私と同じ年にデビューしたスキー教師の友人は重機免許を持っていたので、春や秋のオフシーズンになるといろいろな工事現場で活躍していました。
・ハイキングコースやスキー場の整備などを担当することでフィールドのこともよくわかるようになったとも言っていたので、ガイドとしても良い経験になっていたと思います。ちょうど、ツェルマットで働き始めた頃でしたから、その光景を目にして、「なるほど、地域が観光で食べていくというのはこういうことなのか」と感心した記憶があります。
・59頁・
・地元で買う、地元を使う・2023年10月9日 7:41:05
・レストランで使う食材やホテルの備品にしても、「地元で買う地元を使う」の思想は徹底しています。多少コストが高く付いたとしても、地域内でお金を使ってキャッシフローを活発にした方が、結局は地元のためになる。この考え方はツェルマットが観光・リゾート地としてリゾート地としてスタートした一九世紀末から一貫して変わりません。もちろん、質が悪いものを扱うと厳しく指摘されますから経営努力を怠ることは出来ません。
・今、日本の観光・リゾート地に一番欠けているのが、この「地域内でお金を回す」という意識ではないでしょうか。特に近年は、目先の価格競争に気を取られ、一円でも安い業者から食材・資材を購入しようと躍起になっている事業者が増えています。しかし、そうやって無理に利益を出しても、地元の生産者や業者が倒れてしまえば、結局はその地域の活力そのものがなくなってしまいます。
・象徴的なのが、地方のシャッター商店街です。かつて店主たちは、基本的に店の二階に住んでいました。近隣住民だけでなく、商店街の住人たちが互いに買い物をすること経済を支えていたわけです。ところがバブル以降、小金を手にした商店主たちは郊外に家を新築し、大型ショッピングセンターで買い物をするようになってしまいました。
・60頁・9/27/2023 10:38:47 AM
・住人が買い物をしなくなると商店街は一気に衰退します。商店街から活気が失われ地域の魅力もさらに人が寄りつかなくなります。まさに悪循環です。しかも、者の多くがマンション・アパート、駐車場の経営などの収入で生活費が確保された生活に困っていないために自分の努力でお店のシャッターを開けようとしなくなります。
・こういう地権者が多くなると、商店街は一気に寂れます。
・どのような方法であれ、まちおこしをしようと思ったら、まずは住んでいる人が「真の豊かさ」を感じられる地域を目指すことです。そのためには、地域のやる気がある人々が少数でも良いので団結し、目先の利害を超えて「一緒に稼ぐ」ことを前提に、城内利潤を最大化させる活動を始めることです。地域が一つになる方向で頑張らないと利益もお客様も増えません。
・スイスのブルガーゲマインデが力を発揮するのは、まさしくそのようなシチュエーションの中で機能するしくみを持っているからだと言えます。もちろん、日本では最初から地域全体が一〇〇%一緒になるような合意形成はほとんど無理なのですが、それでも地域の将来や全体のことを考える、やる気のある住民や事業者が集まって動き始めなければ何も始まらないのも確かです。
・ブルガーゲマインデのようなしくみと組織化がすぐに出来ないにしても、それぞれの地域が目指すべき姿を達成するための理想的なしくみを考え、組織化を図ることは必要なことなのです。
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・スイスの観光局は自主財源を持った独立組織
・ブルガーゲマインデが「立場を超えた住民が主体的に参加するパブリックなテーブル」とするならば、そこで決まった方針に基づいて、具体的なマーケティングとブランディングを手がけるのが観光局です。例えばツェルマットの場合、観光局長をトップにマーケティング、スポーツ・カルチャー・イベント課、インフォメーション課、総務課の四つの担当部署が組織内に置かれています。
・日本との大きな違いは、自主財源を持った独立組織だということです。観光局自体は行政傘下にはありませんが、「観光税」と「観光促進税」が直接的な収入となり活動資金になっています。観光税はいわゆる宿泊税のことで、一泊一人あたり二・五フラン 約三〇〇円)です。
・ただし、この財源は観光振興のための目的なので、直接お客様に還元される分野にしか使えません。具体的にはウェブでの情報提供、パンフレットの製作・郵送費ハイキングコースの整備、休憩用ベンチの設営費などです。もう一つの観光促進税は、村内で働く就業者の観光従事度に対して全ての企業からされる徴収される税金で、観光依存度が高いほど脱率も上がるしくみになっています。
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・ちなみに、予算総額は日本円で約9億円です。人件費が占める割合が多いですが、予算のほとんどはマーケティング費用です。
・フェルマット観光局のインフォメーション・カウンターでは、一般的な情報提供や宿泊手配などが主業務です。私も以前ここでカウンター業務を担当していました。これとは別に「スノー・アンド・アルパインセンター」というスポーツアクティビティに特化したオフィスがあり、スキー・スノーボードスクールや山岳ガイド協会の総合窓口になっています。そして、この二つの組織は密接に連携しています。
・インフォメーション業務で最も重要なのは、お客様にミスマッチを起こさせないことです。これは、かつて私がカウンター業務をしていた際にも細心の注意を払うように指導されました。満足度の高いサービスを供給するためには、予算や家族構成なども含め、お客様が求めているニーズをしっかり把握することが不可欠です。
・もう一つ、サービスをする側の都合を決して優先させないことも大切です。日本の観光協会や案内所は観光サービスを提供する一元化された窓口になっていないため、現地発着型プログラムやツアーの予約を未だに受け付けないところが少なくありません。
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・しかも、何故か日・祝日には窓口がお休みのところが多く、利用者のことを全く考えていない体制になっています。目の前のお客様をみすみす取り逃がしているわけです。
・現在、ツェルマットの全体的な観光戦略は五年毎に立案されています。観光戦略委員会は村内にある六つの組織団体で構成されています。それは、ブルガーゲマインデ村役場、ツェルマット観光局、宿泊事業者協会、ロープウェイ会社、登山鉄道会社です。委員会では、これまでの情総括から新しい目標指標が示され、事業計画が立てられています。
・自然と調和した景観を保持
・次は、環境面について見ていきましょう。
・小高い丘の上からツェルマットを見下ろすと、村全体がほとんど同じシャレータイプの建物で統一されているのが分かります。
・いかにもスイスらしいまち並みや美しい景観を保つため、住民はいくつもの条例や自ルールを定めてきました。
・例えば、基本的なルールとして、建物の高さは一九メートル以下、外壁の三分の一以上は必ず木材を色は三色まで等々という決まりがあります。
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・新しく建物を造る場合もご近所とまるで異なる外観にすることは出来ません。
・また乱開発を避けるため、遊休地の大部分は村やブルガーゲマインデが買い上げています。近年多少の法改正はありましたが、この条例によって統一感ある古いまち並みが維持されています。
・電線は埋設され、電柱はありません。通りの見通しをよくするため看板はほぼ縦長のものに統一されています。また、ホテルやレストランはもちろん民家の窓辺にもゼラニウムを中心とした季節の花が飾られているのも、訪問者の心を和ませています。こういう自発的な心遣いからも、ツェルマットの人たちの村に対する思い入れが見てとれます。
・観光・リゾート地では、外から持ち込まれるゴミも多くなるため、公共スペースを清潔に保つように工夫されています。清掃担当者は季節を問わず、早朝から一日中村を掃除しています。
・冬の除雪も基本的に二四時間対応です。またヨーロッパではバカンスに愛犬を連れて来るのが当たり前なので、村内のあちらこちらにフンを回収する袋の箱が設置されています。ゴミ箱のデザインもユニークで、できるだけ景観を壊さないように工夫されています。
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・ツェルマットには夏季に使われる全長約四〇〇キロメートルのハイキングコースがありますが、ここでも環境への配慮が細かくなされています。動植物の保護、保全のために人が立ち入れない地区から利活用に制限をかけるなどのゾーニングがはっきりとされています。
・森林限界までの場所では動植物の保護地区として指定される範囲が多く、ハイキングコース内外の利用から氷河上まで厳格なルールが決められています。ツェルマットでは山頂やフィールド内でのトイレ問題にも早くから取り組んできました。約四〇年前には各山岳ホテルやレストラン等でほとんどが水洗式のトイレが完備され、三〇〇Omの高地から町の地下にあるヨーロッパ唯一の地下下水処理場まで配管されています。
・三八二〇mにあるクラインマッターホルンのレストランや山小屋の一部では汚水を完全再利用できるシステムを持ち、一切、垂れ流すことはしていません。このようにツェルマットでは、「エコツーリズム」という言葉が普及するずっと前から自然環境への配慮を徹底してきました。車の乗り入れ禁止から電気自動車の導入、トイレや下水処理場整備 利用収入から環境保全にフィードバックする資金メカニズムなど、その活動と歴史は自然との共生そのものと言っても過言ではありません。
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・「馬車と電気自動車がもたらす「異日常」
・「馬車と電気自動車の村」というのはフェルマットを語る上で外せないキャッチフレーであり、それによりもたらされるクリーンで静かな環境自体が、今日では重要な地域の観光資源にもなっています。
・もともとこの規制は、地域住民が自分たちにとって大事な自然環境と生活を守るために導入したものです。景観条例や、自前の小水力発電・太陽光発電事業についても言えることですが、まず自分たちのライフスタイルがあり、次にその価値を資源として最大限に活用するしたたかさがあります。この地域に対する保全・保護と利活用の考えがしっかりしているからこそ、生活に根付いたリアリティが生まれるのです。
・電気自動車は、個人では所有できません。ホテルやレストランなど事業者単位でしか持てないよう規制されています。施設のバックヤードなどにコンセントが設けられ、そこにプラグを挿し込めば簡単に充電が可能です。製造やメンテナンスは、村にある二社のメーカーが請け負っています。どちらも家内制手工業を思わせるような小さな工場で、見学に行くと職人による手作り風景に出会えます。
・日本の感覚では、なぜ大手の自動車メーカーに依頼しないのか不思議に思うかもしれません。しかし六〇年代に電気自動車を導入する際に、ツェルマットの人たちは「外注るよりも、自分たちで手作りした方がビジネス的にメリットが大きい」と考えました。
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・モーターとバッテリーがあれば手作り可能なローテクなものなので、製造から整備の全てを自分たちでこなせると判断したのです。そうすれば一台の製造コストはそれなりに高くても(一台、約八〇〇万から一〇〇〇万円します)、自分たちでメンテナンスして長持ちさせるのでランニングコストは安く抑えられます (一九六五年に放映された「兼高かおる 世界の旅」に登場した電気自動車も今でも現役で走っています)。
・また、一 台ずつが発注者のニーズに合わせたオーダーメイドになるので、使い勝手がよく長年愛用年数は五〇~六〇年)することになるのです。さらに、国内外でカーフリーリゾートが増えてきた際には、外販することも可能です(現在、スイス国内にはツェルマット以外に八ヶ所カーフリーリゾートがあり、それらの地域へ電気自動車を販売している)。
・ツェルマットは州内にある欧州最大の高低差を持つダムの水源になっていることから、エネルギーに関しては恵まれた環境にあります。また、山小屋の屋根の一部にも目立たない形で太陽光発電パネルが埋め込まれ、山頂でのエネルギー供給を補っています。ローテクでも手作りにこだわるのは、やはり自前のエネルギー源もなければ電気自動車の村など作れない」という意識が徹底しているからです。
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・このようにカーフリーリゾートという側面を取ってみても、電気自動車の製造・メンテナンスからインフラ構築、運営ノウハウ、エネルギー確保までの全てが地域内で完結しています。ここでもブルガーゲマインデと役場の双方が政策や施策、事業化に対して大きな役割を果たしています。
・「時間消費を促すことが「地域内消費額」をアップさせる
・限られた物理的キャパシティの中で売上と利益を伸ばすためには、客単価を引き上げることが条件となります。但し、お客様に対して無理やり消費を押し付けるような手法は反発を招くだけで結局うまくいきません。
・観光・リゾート地の収入源というと「宿泊」「食事」「物販」の三大要素がすぐ頭に浮かびますが、お客様一人あたりの消費額を高めるには、むしろ一分一秒でも長く「時間を使ってもらう」発想が重要です。うまく滞在時間さえ延ばせれば、地域内での飲食や購買、宿泊のチャンスはごく自然に増えていきます。
・それにはハコモノ施設のようなハードではなく、現地での体験プログラムやツアー、各種のアクティビティなど、地域内で時間をたっぷりかけて楽しんでもらえるソフトを充実させなければなりません。
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・とりわけリピーターに対しては、楽しみ方のバリエーションをどんどん増やすことで、絶えず飽きさせない工夫を続ける必要があります。ツェルマットを繰り返し人が訪れたくなる「強い山岳リゾート地」にしている大きな要素は、雄大なフィールドを縦横に活用したこの時間消費のしくみです。
・例えば、夏ならば本格的な登山ツアー以外にも、初心者でも参加できるザイルを使って渓谷を渡るアドベンチャーツアーや、マッターホルンを登頂せずに裾野に点在する山小屋を巡りながら一周するツアーなど、ツェルマットでしか体験出来ない特別なツアーがあります。
・また、冬には氷の柱を用いたアイスクライミングから天候に左右されない室内でのクライミング教室、登山鉄道駅で借りられるソリで気軽にダウンヒルを楽しむことも可能です。このように季節や天候に合わせ、自然のフィールドから町の中まで、さまざまな体験プログラムやツアー、アクティビティが多数提供されているのです。
・単にスキーをしたり、アルプスをトレッキングしてもらうだけでなく、いわば自然を丸ご楽しませようとする多種多様なサービスと姿勢が特徴的です。冬のシーズンはツェルマットもスキーリゾートと言われますが、当地では整備された雪道でウィンターハイキングを楽しむ人からカーリングを満喫する人、雪景色を見つつ贅沢な時間を過ごす人など、レジャーのあり方も様々です。
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・この様に楽しみ方のバリエーションの豊富さからみでも、スキーリゾートというより雪上フィールド全てを楽しむ「スノーリゾート」と呼 ぶ方が相応しい地域と言えるのではないでしょうか。
・また、地域内ではお客様に楽しんで頂くためにさまざまな連携が行われています。例えば、山岳ガイド協会やスキー・スノーボードスクールのプログラムとホテル宿泊がパッケージになった商品もあれば、スキー教師とテニス教師が連携して両方が上達できるプランが出てきたりもします。
・スポーツアクティビティ以外にも、カルチャー教室、エステなどビューティプログラムも豊富であり、それぞれを組み合わせたプランもありま す。地域内の観光に関わる事業者が密に連携を取り、四季それぞれに合ったプログラムやツアー、イベントなどを考え出しているのです。年間を通した楽しみを提供しているという意味では、「オールシーズン・マウンテン・リゾート」と言えるのがツェルマットです。
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・ガイド・インストラクターはあこがれの職業・
・その山での楽しい滞在を支えているのが、スキー教師や山岳ガイドの層の厚さと質の高さです。現在、ツェルマットの山岳ガイド協会のメンバーは約八〇人。スキー教師が約二〇〇人山岳ガイドの大半は冬スキー教師として働いています。もちろん単にスキーを教え、山を案内するだけではありません。それぞれが独自の工夫でゲストを楽しませ、地元の魅力を伝えるインタープリター(解説者)としてのスキルに長けています。
・どれほどスキーや登山技術が高くても、お客様を楽しませるコーディネートやプロデュース能力が無ければプロフェッショナルとは言えません。スキー教師やガイドというのは、いわば朝から夕方までお客様と行動を共にして、ご要望に応え続ける仕事です。
・例えば、お客様から「今日は天気がいいので、マッターホルンを見ながらフォンデュを食べてみたい」と突然のリクエストがあったとしても、フィールド内の美味しいお店を予約し、お昼の時間に間に合うように広大なゲレンデを案内しながら到着するようにしなければなりません。このような段取りができることや自然や歴史等の解説も当たり前 出来ることそして、エンターテインメント性を発揮してお客様に滞在中ずっと楽しんでもらえることが出来てこそ、初めてプロフェッショナルと言えるのです。
・私がスキー教師としてデビューした際にも、お客様の満足度をいかに高めるかという点を繰り返し教えられました。
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・「目の前のお客様が君の客となり、もう一度この村に戻ってきてくれて初めて一人前だ」インストラクターやガイドは全員、まずこの意識 から叩きこまれます。私自身、フィールド上ではお客様の様子を見ながら興味を引くようなお話をよくします。例えば、氷河の出来るしくみや動物の足跡から生態についての話もしますが、「この場所は、今は雪で真っ白ですが六月になるとリンドウやキキョウが咲いて一面が青や紫になるんですよ。
・想像してみてください」とか「七月になると今 岩からエーデルワイスが花を咲かせますよ。次回はぜひ夏に来ていただいて、ま一緒に歩きましょう」と違う季節の話をしたり、次のお誘いをしたりもします。いかにお客様の想像力に訴えかけ、当地ヘリピートしたくなる気持ちにさせるかもガイドの腕の見せどころです。
・残念ながら日本のスキー教師でそういう発想を持つ方はまだ少数です。フィールドを 知る努力やそれらを活かす努力をしない方が多いのです。スキーの技術はあっても、目の前にある自然のことも分からなければ、眺めのいいスポットや美味しいレストランにも興味がない。甚だしい場合には、高い料金を支払ってレッスンを受けに来られたお客様をいつまでも「生徒」としての扱いしかしない人もいます。そうやって上下関係を前提に、時には怒られながら滑っていてもお客様の満足度が上がるはずはありません。
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・ある時、日本で若いスキーインストラクターを捕まえて、山の名前を聞いてみたことがあります。そうすると「東京から来たバイトなので全然分かんないです」という答えが返ってきました。「では、地元の美味しい居酒屋くらいは知ってるんじゃない?」と重ねて聞くと、「三食賄い付きなので外食してません」。リピーター獲得という観点で見れば、この返答と態度ではアウトです。
・ヨーロッパでは、ガイド業に対する職業的なステータスが確立されています。歴史や伝統から自然科学まで、あらゆる現象をその場で説明するガイドは、いわば最先端の情報サービス業であり、子供たちからも人気の職種です。
・本人の専門性や努力次第ではありますが、高収入なガイドも多くいます。日本でもガイド業で稼げるようになった人たちがやっと出てくるようになりましたが、それでも何とか生活することが出来るかどうかのレベルであり、たとえ通訳案内士であっても年収一〇〇〇万円を超える人たちはまだまだ少数です。これからはただ案内や説明が出来るだけでなく、エンターテインメント性やコーディネート力で高度なサービス提供が出来るプロフェッショナルなガイドたちが観光ビジネスの現場を変えていくかもしれません。
・74頁・9/27/2023 3:25:47 PM
・最も重要なのは人財
・世界中の観光・リゾート地におけるあらゆるCS(顧客満足度)で特に自由記述で共通していることがあります。それは地域、事業を問わず「大満足」の評価を受けている内容のほとんどには「人」との関わりが含まれていることです。
・どれだけ良い商品やサービスを提供していたとしても、最終的には接客対応時の態度全ての善し悪しが決定してしまいます。スタッフや職員が接客接遇等のセミナーや講習で研鑽することも大切だとは思いますが、ただ素敵な笑顔や元気な挨拶、きれいなお辞儀が出来れば良いというものでもありません。重要なのは、お客様とのコミュニケーションの中で心を読み取り、変化していく感情を理解して共感し、何をすれば良いのか判断して実行する人間力を高めることです。この力には、IQ的な頭の良さよりも心の豊かさに通じるEQ (Emotional Quotient) の方が重要です。
・しかし、いくらトレーニングを重ね、場数を踏んで経験値を上げたとしても、職場環境や生活に問題があると上手くいかなくなる場合があります。ゆとりや余裕がある生活や環境が、心と行動に与える影響については説明するまでもありません。実際、ほとんどのヒューマンエラーは、忙しくて物理的、心理的に余裕が無くなった時に起こります。
・75頁・
・日本語でも「忙しい」は「心を亡くす」と書きますが、そんな状況が続くようでは満足なサービス提供が出来るはずがありません。だからこそ、職場環境や待遇等でES (Employee Satisfaction 従業員満足度)を向上させることはCS推進と同じぐらい重要なのです。
・また、住民としての生活環境やライフスタイルも同様だと考えるべきでしょう。何故なら、豊かな地域をつくり、育てるのもEQ力を持つ人でなければ地域全体を良くしようという行動にはならないからです。旅先で出会う魅力的な人たちは総じてスローライフなのですが、そのようなライフスタイルを持っている人たちだからこそ、EQが高いとも言えるのではないでしょうか。
・地域内の人間関係も重要です。地域内の住民同士のコミュニケーションが悪いと外部の人間である旅行者も気付きます。実際、移住者と地元民の人間関係が良好なところほど地域全体のあらゆる活動が活発で、お客様からの評価も高くなります。EQの力はお客様よりも、まずは地元同士で磨かなくてはならない力かもしれません。
・地域が良くなり豊かになるほど、その地で働きたいという人は増えていきます。実際、ツェルマットにも様々な職がありますが、外から働きに来ている人には、上に「フェルマットに住みたかった!」と言う人がとても多いのです。
・76頁・9/27/2023 3:34:11 PM
・例えば、地元外出身のスキーインストラクターや山岳ガイドは「同じスキーインストラクターや山岳ガイドをするなら、他でなくフェルマットだ。自然フィールドも良いけど、何よりここに住んでみたかった」と言います。実際、コースの広さや山の高さだけならヨーロッパ内には他にもフィールドとして素晴らしい観光・リゾート地がいくつも存在しま す。
・大切なのは、その職に就きたいと思う以上に、「その地域だからこそやってみたい」と思えるかどうかです。その様な地域で生まれ育った人たちは、サービス業に従事していなかったとしても、旅行者に対してとてもフレンドリーです。子ども達は誰に言われるでもなく元気な挨拶を知らない人にでもします。旅先での良い思い出の多くは、その地で会った素敵な人たちのことが記憶に残ることで成り立っています。
・今後、職場環境から生活環境まで、豊かさを実感出来るような地域になることは、観光・リゾート地としてとても重要です。だからこそ、これからはただの「観光」ではなく、旅行者と住民にとって幸せを感じられる地域としての「感幸地」を目指すべきではないでしょうか。
・第2章終わり・76頁・9/27/2023 3:44:14 PM・
・77頁・
観光立国の正体・藻谷、山田圭一郎・藻谷浩介・第3章・観光地を再生する・弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から・77~105頁・
takita.synapse.kagoshima.jp/motanikousuke takizawamura yuusyuuna tihou jititai.html・
・第3章・観光地を再生する・・弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から
・地域振興に必要な住民主体の活動・2023年10月9日 7:45:06
・観光庁が提唱する「住んでよし、訪れてよし」を実現する地域になり、お客様から支持を受け続けるためには、何よりも住民が地域に対する愛着や誇りを持てることと、生活に対する満足度や充実度を満たすことが基本です。住民が自らの手で地域の本質的な価値や魅力を取り戻すことが地域再生の原点です。
・そのためには、まず地域がこれまで抱えてきた問題や課題を明らかにして現状の把握と認識を新たにすることから始めなければなりません。そして、目指すべき地域の理想の姿をビジョン( ビジョン(目的)として明確化し、その後は理想と現状のギャップを埋めるために長期的な視点で戦略を決め、目的達成のために年次毎(長中短期)の目標を定めて優先順位を付ければ、後は戦術を駆使しながら一つひとつ進むだけです。
78頁・9/28/2023 8:41:02 AM
・ここで注意すべきは、目指すべき地域ビジョンを観光・リゾート地としてのあり方だけに限定しないことです。地域の将来が観光産業に特化した姿になればなるほど、他の事業者や住民が不満を募らせることになり、多くの住民の同意や協力を得ることが難しくなります。過去に観光による地域再生や活性化が失敗したところの多くは、 関連事業者だけが集まって地域を変えようとしていました。
・行政が観光振興の名のもとに多大な労力と補助金を付けたとしても、額が大きくなればなるほど観光事業者を潤すだけにしか見えず、地域内の対立構造を煽る原因にもなります。これは観光以外の産業でも言えることですが、政策や施策が特定産業に偏ることで必ず起きる問題です。
・スイスのブルガーゲマインデのような地域経営組織を立ち上げ、多くの事業者や住民が協力しながら主体的に活動するしくみにするのは簡単ではありません。それでも、自分たちの目的を達成するための理想的な組織運営を目指して努力を続ける覚悟があるのならば、最初は少数でも意識とやる気のあるメンバーだけで走り始めることです。何と動き始めてしまえば「ゼロ」の状態からは脱することが出来ます。そして、複雑に絡み合った地域のエゴと利害の糸を解きほぐし、一進一退と紆余曲折を繰り返しながらも動きを止めることがなければ、同じ考えや想いを持つ者や協力者が必ず現れます。
79頁・
・地域を動かしたいのならば、少しずつでも前進しながら力を付けるしかないのです。
・この様な過程と実践を経て住民主体の地域経営のしくみと組織を実現したのが、北海道弟子屈町です。弟子屈町は、観光振興による地域再生や活性化だけでなく、今後の日本における地域振興やまちづくりの参考となるロールモデルの一つです。
行政サイト/摩周湖 屈斜路湖 川湯温泉のまちてしかが ~ 弟子屈町公式ホームページ (town.teshikaga.hokkaido.jp)
忘れ去られた「高度成長期型」の観光地
・弟子屈町は、昭和四二年の大ヒット歌謡曲「霧の摩周湖」で一躍有名になり、高度成長期と共に伸びてきた典型的な物見遊山型の観光地でした。摩周湖や屈斜路湖、硫黄山などの自然、川湯温泉や摩周温泉等の温泉も擁し、道東でも屈指の観光資源に恵まれた場所です。しかし、時代が変わり、歌も「懐メロ」扱いとなった平成三年の年間宿泊者数約七三万人をピークに、集客数が激減していきます。
・同じ北海道でも、世界遺産に認定された知床には世界中から観光客が訪れ始め、パウダースノーで有名なニセコはオーストラリア人を中心に海外からのスキー客を集めていますが、私がお手伝いを始めた頃の弟子屈町は、まるで時代から取り残されてしまったような町になっていました。
・ちょうどその頃、ある大学で集中講義を受け持った私は、試しに学生たちに「霧の摩周湖」を知っているか尋ねてみたことがあります。
・80頁・9/28/2023 8:48:20 AM
・結果は誰一人知らなかった。ところが地元の多くの方々に日本中がこの歌をまだ覚えていると信じているようでした。この種の勘違いは日本中どこでも見られます。例えば伊豆の観光事業者は、日本中の学生「伊豆の踊子」を読んでいると思い込んでいるし、高知の人ならペギー葉山の「南国土佐を後にして」を皆がまだ知っていると思い込んでいる。同様に現状認識が出来ない人たちからすれば、人が来なくなってしまった原因がどこにあるのかを認識するのが難しいのは当然かもしれません。しかし、これは凋落している観光地に共通している大きな問題の一つでもあります。北海道運輸局からの依頼で初めて弟子屈町を訪れた際、私は講演で町の現状を数字で栄し、こう問いかけました。
・「この町の小売販売額は、一九九〇年一〇〇とするとすでに半分くらいまで落ちています。人口減少で町内消費は億単位で消え、商業床面積も大幅に減っています。このままでは将来はかなり危ういみなさんは一体、自分たちの子供の世代にどんな地域を残すつもりですか?」
・81頁・
・この講演がきっかけとなり、弟子屈町の事業者の方々から改めて依頼を頂き、弟子屈の地域再生事業に取り組むことになったのです。当初はほぼ月に一度の割合で弟子屈町内の様々な団体、組織の方々と懇談を繰り返しました。話し合い中、今後の弟子屈町にとって必要な地域振興のしくみとして、
「町内観光事業者だけでな様々な産業事業者が参画し、住民が主体的に活動出来る新たな公の組織」を立ち上げることが決まりました。
・81頁・
・「住民主体 行政参加」の組織に一本化
・そして、地域内の連携を図り、自主的な活動をするためのプラットフォームとして「てしかがえこまち推進協議会(通称えこまち)」がスタートすることになったのです。やる気のある住民や事業者のコンセンサスを形成し、無駄なく確実に実行していくために、この組織を立ち上げる過程で強く意識したことが三つありました。
第3章
・一つは、町内のあらゆる組織団体(構成団体・組織は弟子屈町、教育委員会、摩周湖観光協会、商工会、振興公社、農協、自治会連合会、郷土研究会など)を包括的に取り込むことで町内の様々な事業を極力一本化することでした。
・どこでも同じようなことが起きているのですが、例えば行政から補助金をもらって何か事業を進める場合、観光協会や商工会議所、もしくは住民の合意形成を取るためだけ町内の「長」が付く人や有力者を集めた場当たり的な「○○会議「○○」などが受け皿になります。
・82頁・9/28/2023 9:14:35 AM
・もう一つは、「住民参加」ではなく、「行政参加」型にしたことです。 「住民参加」は言葉自体が行政のエゴ用語の一つであり、行政側が住民を参加させようとする「行政主導」の言葉です。「行政参加」はあくまでも住民が主体となったしくみを行政側がサポートする「住民主導」を表す言葉なのです。
・83頁・
・協議会としてあらゆる活動の具体的な話し合いや計画を立てて実行するのは、会員である住民がそれぞれ参加している八つの専門部会(食文化部会、情報部会、人財育成部会、女性部会、温泉街部会、エコツーリズム推進部会、アート&アド部会、ユニバーサルデザイン部会)で行います。協議会の事務局は役場の観光商工課にあり担当者もいますが、事務的機能と役割しか持っていません。
ブルガーゲマインデなくして観光で国立たず、かも - さめのくち (goo.ne.jp)
・最後の一つは、協議会の活動目的を「観光と農業を基軸として、様々な産業を包括した総合産業化に取り組み、「循環型社会』を確立し、「自立」や、その「持続」を図り「誰もが自慢し、誰もが誇れる町」をつくる」と定めたことです。内容的にはスイス・ツェルマットのブルガーゲマインデの理念とほぼ同じです。経済的活性化のため だけが目的になると、住民からすれば緑が遠くなりあまり関係の無いものになってしまいます。住民にも自分ごととして捉えられる「地域として目指す目的」でなければ得られません。
・84頁・9/28/2023 9:29:32 AM
・行政サイト/摩周湖 屈斜路湖 川湯温泉のまちてしかが ~ 弟子屈町公式ホームページ (town.teshikaga.hokkaido.jp)
・そして、弟子屈町ならば、観光農業がしっかりと稼げるようになることで他にも波及効果を与え、町全体の収入アップが税収増に繋がり、地域の暮らしが向上することを住民が出来るようになることが重要です。そのためにも、一人でも多くの住民が出来る目的として「誰もが自慢し、誰もが訪れる町」ビジョンとしたのです。
・住民ならだれでも参加OK
・てしかがえこまち推進協議会では、住民による各部会単位の会議が毎月のように開かれています。八つの専門部会はそれぞれが年間目標と週次計画を立て(三〇年と五年の長中期計画もある)、独自の活動を進めていますが、事業によっては複数の部会が連携した活動もあり、年に一度開催される「てしかが観光塾」のように全ての部会が関わるものもあります!
・会を重ねる毎に、弟子屈町ではこれまでにはかった新しい動きが出てくるようになりました。その理由としては、これまで観光とは無縁だった人たちが協議会活動に参加していることと、各部会のテーマが横軸となったことで、産業別組織・団体別、担当別と割り構造で硬直していた状態が少なからず解消されたことにあります。
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・また、様々な活動の成果が地元新聞社だけでなく全国的にマスコミで取り上げられることも多くなってきて、これも励みになったと思いますが、それ以上に自分たちで企画立案と実践を続けてきた事業が確実に増えてきているという事実が次に繋がる力になっています。
・このような実践の繰り返しと成功体験を積み重ねることで「町をよくしている」ことを実感することが、住民主体で地域振興を推進する上ではとても大切なことだと思います。当然、「稼ぐ」ことが前提となった活動が主たるものではありますが、地域内のネットワークが多様化し、強化されていくことで関係者の考え方にも大きな変化が出てきました。
・実際、これまで観光や行政とは無縁だった会員の間にも「この町の未来をどう作って「いくか」という意識が芽生えています。町や共同体、自然環境を維持するためのコストにも関心が向き、みんなが潤うためにはどういう事が必要かという観点からの活動も増えました。収益事業以外でも町の歴史や伝統を再認識し、地元の知恵を伝承するなど動きも出始めました。これらの事からも、会員の町に対する考え方が広く、深くなり意識も高くなったのは間違いないと言えます。
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・でしかがえこまち推進協議会の大きな特徴の一つは、これまで説明をしてきた通り「弟子屈町民なら誰でも参加できる」ことです。大人でも子どもでも問題ありません。しかも、どれでも好きな部会に入ってかまわないし、一つだけでなく複数の掛け持ちもOKです。もちろん女性部会に男性が入って活動することは出来ませんが、オブザーバとしての参加は可能です。このしくみによって縦割りの弊害が解消され、横の連携が格段に良くなったことで結果が出たことがいくつかあります。
・例えば地元のグルメの企画やPRをする際でも、これまでは観光協会、JA、商工会などがその度に主団体としてバラバラに活動をしていました。しかも、役場や観光協会などが作成するパンフレットなどでは、事業者や会員を平等に扱うことが優先され、経営努力の有無や本当に地元がお薦めしたいかどうか、地元食材を使っているかさえも関係なく紹介されます。それが今では「食文化部会」という食に関する横断的な活動を行う部会があるので、メンバーが本当に自信を持って紹介出来るところだけを集め、他の事業者にも地元産の食材を使うことを勧める「地消地産」を推奨するパンフレットが完成しました。それが「MADE inてしかがガイド」や「おいしい弟子屈産野菜活用ガイド」です。
・87頁・
・この地域リアリティー溢れるパンフレットは年間一万部以上も実際に人手に渡っています。部会としては企画やPRだけでなく、地場産品レシピの講習会も主催するまでになっています。
・活動の初期段階ですぐ目に見える成果を出したところに、「情報部会」があります。これまで弟子屈町の観光関連のインターネット情報は、役場だけでなく観光協会、商工会、道東の広域観光ページなど、いくつも並立していました。そこで町内の観光情報を情報部会がポータルサイト「弟子屈なび」として一本化したところ、ページビューが一気に数年で約五〇倍に跳ね上がったのです。ポータルサイト化により、アクセス解析か 情報発信の中身、リンク先との連携、SNSの活用等を自ら行うことが出来るようになったことで、一方的な情報提供ではなく、お客様から弟子屈町が選ばれるためのウェブサービスになったからです。運営を集約したことによって、それまで各組織がそれぞ負担していたコストを削減することにもなりました。今、部会では情報セミナーも開催しています。
・各部会の活動を見ると、商品やサービス。イベント等の企画、運営等もありますが、実は人を育てることに対して最も力を入れていることがよくわかります。その代表格と言えるのが「てしか観光塾」です。平成二年から毎年開催され、外からの参加者も交えて三日間にわたって講座とグループワーク発表があります協議会の活動をものとし、様々な事業化を数多く生み続けるためにはそれを支えるための「人」がいなければなりません。そのためには自分たちが研鑽しながらも新しい人材を育てることが必要となります。
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・その結果でもありますが、これまで各部会活動から生まれた商品やサービスにはグルメから地場産品、イベント、体験型のツアーやプログラム等、ヒット商品が数多く生まれました。しかし、食べ物やお土産品等は既存の飲食店やお店で実際に販売することが出来たのですが、旅行商品に関しては「旅行業法」の壁があり、企画から販売、催行(さいこう)に至るには多くの課題がありました。
・株式会社を設立。初年度から黒字に
・住民主体で動き始めた活動が広がりを見せ、様々な事が立ち上がってきた中で、現地発着ツアーを主催、販売等を行おうとした時、旅行業法のコンプライアンス問題が出てきました。これまでの協議会の枠組みだけではカバーしきれなくなった事業化に着手することになったのですが、そこで生まれたのが「株式会社ツーリズムてしかが」という旅行会社です。
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・行政からの補助金等は一切貰わず、協議会の会員や住民が一〇〇%出資して自前で立ち上げました。
・新しく旅行会社ができたことでこれまでに無かった旅行ビジネスが展開されることとなり、新しい雇用も生まれました。しかも、初年度(二〇〇九年)から黒字化に成功。
・借り入れ分の返済もしました。現在に至るまで単年度で少々赤字になることはあったとしても黒字を出しながら税金を納めるだけの会社に育っていることは事実です。この様な「着地型旅行会社」と言われるコミュニティービジネスの類では、最初から利益を出しながら継続している会社は極めて稀な存在です。株式会社、有限会社、NPO等を問わず、着地型観光を推進しているほとんどの組織が行政からの補助金無しでは運営が出来ないものばかりです。これは観光協会や自然学校等でも同様なのですが、多くの組織が赤字を垂れ流す状態から脱却出来ずに全く自立出来ていません。
・協議会の各専門部会活動と「ツーリズムでしかが」の連携が本格的に始まった頃、女性部会のメンバーが町内の自然体のアクティビティに実際に参加するという企画がありました。実は多くの会員が地元で行われているカヌーツアーやホーストレッキング等に参加したことが無かったのです。
レジャー一覧・アクティビティ一覧|そとあそび (sotoasobi.net)
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・この時は屈斜路湖から釧路川へのコースと原生林の探索でした実際に参加したメンバーは、「地元の自然の素晴らしさと体験ツアーの楽しさに気付いた」と目からウロコが落ちたそうです。「子屈の宝」である大自然を生活者とは全く違う視点として馬上などから見ることや、ガイドの丁寧で奥深く楽しい解説を聞くことによって、地域の本質的な価値を再認識出来たようです。これこそ「百聞は一見にしかず、百聞は一行にしかず」です。
・その後、女性部会メンバーが気付いた宝の山を活かした訪日外国人旅行者向けのツアーも企画されました。また、この時はフィールドが違う体験事業者同士の連携を図ることで、町内における観光客の滞在化の新しい可能性も見出しました。多くの観光地では、事業者同士がフラットに話し合うしくみがありません。事業者同士が互いをライバル視していることがほとんどです。
・多くの地域ではお互いのことを理解し、意識することやすれ違いを解消するための場すらありません。今回のように事業者がお互い協力しあったり、さらに新たな連携を実現できたりしたのも「てしかがえこまち推進協議会」というしくみがあったからこそだと思います。
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・弟子屈町の強みは、自前の旅行会社を持つことで自分たちのアイデアで企画した旅行商品をすぐに販売に移せることです。現在では、定番化したベストセラー旅行商品があります。それが「摩周湖星紀行」という星空観察ツアーと「摩周・屈斜路雲海ツアー」です。摩周湖には展望台がありますが、これまでは夜や早朝には誰も展望台へ行くことがなく、ほとんど利用されていませんでした。
・この時間帯を活用することで、これまで知られていなかった摩周湖の新たな楽しみ方を提供するだけでなく、実際に泊まらないと体験出来ないメニューを揃えることでお客様に宿泊滞在して頂こうという仕掛けにもなったのです。
・アウトドア体験の課題は天候なのですが、「摩周湖星紀行」の場合は当日の夕刻まで受付をしているのでギリギリまで天候の様子を見てから参加出来ます。今ではほぼ通年で催行(オフシーズンは休みあり)され、弟子屈町の顔とも言える代表的なツアーになりました。現在、硫黄山をフィールドとした馬車や馬そりを使ったツアーなどの企画も実施しています。
・こういう地域ならではのアイデアを元にした旅行商品は、都会の旅行会社が机の上でいくら考えても決して出てきません。弟子屈町の人しか知らない「とっておきの感動」はネット上に出てくることも多くありません。
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・地域の本質的な価値をお客様の感動という価値として提供するためには、やはり地域に住む人たちが自分たちの力でプログラムツアーを考案するのが一番だと私は考えています。
・各専門部会から出てくる様々なアイデアを組み合わせ。弟子屈町の魅力を発揮した旅行商品を提供するために「ツーリズムでしかが」の役割は今後も大きくなるでしょう。
・繰り返しますが、重要なことは、観光関連事業者だけが集まるのではなく、やる気に溢れた住民が主体的な活動を続けられる仕組みをつくることです。また、他の事業者とも連携を図り、多種多様なアイデアを具現化し、ビジネスや地域をより良くする活動に繋げていくことです。
・エコロジーとエコノミー
・住民の手による地域振興を推進するために立ち上がった「てしかがえこまち推進協議会」の名前にある「えこ」には「エコロジー」と「エコノミー」を両立するという意味が込められています。
・今後、持続可能な社会を構築するためには、地域が総合力を発揮 して稼ぐことだけでなく、自然環境を守りながら未来へ引き継ぐための取り組みも必要になります。
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・阿寒(摩周) 国立公園の多くの土地は弟子屈町内にありますが、摩周湖へのマイカー規制の社会実験や、夏季と冬季に販売している「弟子屈えこパスポート(公共交通機関の利用促進。バス乗り放題パス)」などに取り組んできた理由も、世界一と言われた摩周湖の透明度が落ち、排気ガスで枯れ始めたと言われる樹木が増えたことに危機感を持ったことからです。だからこそ、弟子屈町は環境保全と観光振興を両輪として地域を活性化する「エコツーリズム」の推進に積極的に取り組んでいます。今すぐに実現するとは思いませんが「てしかかえこまち推進協議会」のこれからの活動次第では、弟子屈町がスイスの山岳高原リゾートのような世界に誇れる日本のエコリゾート」に なる可能性もあると思っています。
・外国人旅行客に大人気の「里山体験」2023年10月9日 7:59:24
・そもそも旅は異文化体験です。雄大な自然環境やテーマパーク等の環境や空間は「非日常」ではありますが、異なる文化や伝統、生活を感じる土地、空間は「異日常」と言えます。旅行者からすれば、その地域の日常で暮らすように旅することは「異日常」体験そのものです。
・飛騨市古川を中心に「株式会社美ら地球」が提供する「SATOYAMA EXPERIENCE(里山体験)」では、日本のとも言える里地里山をありのまま体験するツアーがいくつも用意されています。
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・その中でも、英語ガイドが案内する「飛騨里山サイクリング」は欧米豪からの個人客に絶大な人気があります。他にも麹づくりや豆腐づくりなど飛騨の食文化にも触れる「フード&カルチャーウォーク」や伝統的な古民家に滞在する「ロングステイプランなども評価が高く、日本ならではの体験として喜ばれています。
・ツアー途中、学校から手を振る子ども達の姿やや街で出会う地元の人たちとのふれあいなどのリアルな日常生活体験は、国内外の旅行者にとって新鮮であり、好奇心がき立てられるものばかりです。 SATOYAMA EXPERIENCE では、従来の物見遊山型観光では得ることの出来なかった感動と満足が、新しい観光のあり方として提案されています。
・その実力は、世界最大のクチコミサイトであるトリップアドバイザーでも国内のアクティビティ事業者として最高評価を得ていることからも実証されています。
・現在、世界の六〇を超える国々から、わざわざ飛騨市までツアーを楽しみにやって来る旅行者がいます。国際観光都市として有名な飛騨高山や世界遺産の白川郷のほぼ中間地点に飛騨市古川はありますが、SATOYAMA EXPERIENCE が無ければ、飛騨市古川の農村部や市街地へ外国人旅行者がやって来ることは無かったでしょう。
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・この事例が示しているのは、名所旧跡の様な観光資源のないことや、公共交通機関の不便さを観光地の集客力の弱さの言い訳には出来ないことです。旅行者は、「その地でなくては手に入らないもの、体験出来ないもの」があれば、たとえ無名な地域であったとしても、新幹線駅や空港、高速道路などの高速交通が整備されていなくても、世界中からやって来るのです。逆に、旅先として選ばれるための商品・サービス化を怠り、その地へ行く必然性が何もなければ、たとえ知名度がある地域でも旅行者から旅先として選ばれることはありません。
・この点については、第二部の藻谷さんとの対談でもう少し 具体的に語りたいと思います。
・「なんにもない」から「クールな田舎」へ
・「なんにもないからクールな田舎へ」 「里山から SATOYAMA へ」を掲げ、日本人がほとんど意識も評価もしていなかった里山農村部での日常を旅行商品・サービスプロデュースしている美ら地球の事業は、地域と密着した連携と活動によって支えられています。
・彼らの活動は自らの観光事業のみならず、地域のマネージメントにも関わり、飛騨市古川の伝統、風習、古川の古民家と情報発信や地元企業の外国人受け入れ支援、まちづ協議会(てしかがえこまち推進協議会を見習って市が立ち上げた)の運営等、あらゆる活動が地域に深く根ざしています。
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・実際、当初はタダの自然環境や日常を体験する観光の在り方や訪日外国人旅行者の受け入れに疑問を抱いていた住民が、マスコミに地元が取り上げられることや旅行者との直接的な交流を通じて意識や行動が変わっていきました。
・地域の生活である「日常」商品、サービス化して提供するには、住民の理解と連携が必要不可欠なのは飛騨市に限った話ではありません。地域が観光地化を目指すのではなく、住民が幸せに豊かに暮らしていける魅力ある地域をつくり、育てることが重要なことはこれまでも述べてきました。
(株)美ら地球のCEOである山田祐氏とは、彼が飛騨市観光協会の仕事をしている時からの付き合いですが、私の考えや価値観に共感してくれているだけでなく、実際の事業運営にも反映していることに最大の敬意を表したいと思います。彼は事ある度に「桂一郎さんの言ってることを飛騨で3D化してるだけですよ!」と笑いながら軽く言いますが、これまで彼の活動に少なからず関わり、彼の苦悩や苦労を知っている者としては、今の成功に対する喜びと共にこれからの進歩、進化にも期待しています。
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・今後のビジョンを聞いてみると、最近は「beyond SATOYAMA EXPERIENCE」をキーワードに、三つのステップを考えているそうです。二つは既に動き始めているようで、「飛騨をクールにー」と「日本のイナカをクールに!」を目指す活動です。ツーリズム周辺産業や農業など、地域の既存の企業との連携や協働のプロジェクトを立ち上げ、地域資源を活用した新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいくとのことです。また、これらの飛騨地域での実践から得た知見を活かし、国内の他地域で同様の取組みの支援活動も進めており、最近話題のDMO (後述)設置や人材育成の事業は、私も彼と共に複数の地域で一緒に活動しています。
Travel Journal Online: 美ら地球・山田拓CEOが語る「持続可能な観光に地域でできること」 - トラベルジャーナル (tjnet.co.jp)
・最後のひとつが「世界のイナカをクールに!」です。 山田拓氏が「海外で講演にお呼び頂くことが何度かあり、また自分で各国を旅してみると、我々の手法は国内に留まらず、海外でも求められるソリューションになり得るのではと感じることもあります」と言っています。彼らは時間軸も長くとり、国内に留まらずグローバルを見据えた視点もあります。ツーリズムに関する新たなビジネスが日本の地方から世界に羽ばたいていく日を楽しみにしたいと思います。
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・美ら地球の強みは、創業者がグローバルのコンサルティング会社出身で、マネージメントやマーケティングに精通していることです。それらの技法を駆使し、実践で得た知見を展開する手法は今後に大きな可能性を持っています。飛騨市古川の試みは、地方にこういう人材が多く活躍する場を創ることが、地方創生や観光立国に必要な要素であることを示唆しているように思えます。
・山田氏とはたまたま苗字が同じで、講演やセミナー等で一緒になることも増えました。いろいろな方から本当の弟と同違えられることが多いのですが、これほど頼もしい弟分がいるのは嬉しい限りです。
・とやま観光未来創造塾
・観光・リゾート地の再生や活性化の為に最も重要なことが、人材育成であることに異論を唱える人はいないでしょう。多様化する訪日外国人旅行者への対応、サービスや商品の質の向上と高付加価値化、マネージメント力の向上等、観光関連産業でもこれからの人材には高度なスキルが求められます。そのスキルも専門的な知識が必要なものもあれば、長年の経験の積み重ねでしか得られないようなものもあり、多種多様でありなが対応力の高さが必要です。
・99頁・
・そのような人材を外部から雇い入れるとなると、相当な給料を出さなければなりませんが、人件費による高コスト化を抑えなくてはならない経営サイドの視点でとらえると、外部からの採用にも限界があります。特に近年の人口減少社会ではあらゆる現場で労働力不足が起きていて、優秀な人材は企業間でも地域間でも奪い合いです。
・観光関連産業に関わる人材育成も様々な方法で行われていますが、この業界は中小企業が多いので、日々の忙しい業務の中で高度人材を育成するのは至難の業です。そこで地域全体で人材育成をする場を提供することが行政に期待されます。観光関連でいうと、おもてなしセミナーのような接客接遇系、語り部や自然体験ガイドの養成系など、全国各地でいろいろな教室や講座が開催されています。
・しかし、その成果として地域全体の顧客満足度が向上したとか、起業が増えたり地域の売上や利益が増えたといった実績を出している地域は決して多くありません。しかし、富山県が平成二三年度から主催している「とやま観光未来創造塾」は、五年間で卒熟した延べ約三七〇名の事業者のほとんそれぞれの実業において結果や実績を残しています。しかも、塾の修了生と現役生の間のネットワークが、多くの連携事業にも結び付いています。入塾後に成果をあげた修了生の中には、講師役として活躍する方も出てきました。
・100頁・9/28/2023 1:56:19 PM
・産業観光 工場見学に行こう | 特集 | 【公式】富山県の観光/旅行サイト「とやま観光ナビ」 (info-toyama.com)
・この「とやま観光未来創造塾」は、富山県知事の石井隆一氏が北陸新幹線開業効果を持続・発展させるとともに、外国人旅行者急増やグローバル化のさらなる進展を見据えて発足させたものです。講師には東京大学の西村幸夫教授を筆頭に、県内外の現場で実際に活動して実績を上げている事業者や有識者を招きました。
・その目的は、1,おもてなし(顧客満足度上昇)力の向上、2,お客様に満足いただける観光ガイドの育成、3、ある観光地域づくりをリードできる人材育成、4,地域資源を生かしてインバウンドツー リズムを企画・実施できる人材の育成としています。私からは、富山県が国内外から選ばれ続ける観光地」となるために、観光事業者だけでなく商工業や農林水産業などの多くの事業者と情報・知識やノウハウの共有を図る必要があることを提案させて頂きました。
・他の都道府県が実施している人材育成事業と異なる特徴は、参加者が自身のレベルとスキル、フィールドに合ったコース選択が出来るところです。「とやま観光未来創造塾」のコースは、「観光おもてなし入門コース」「観光ガイドコース(中級専攻と上級専攻)」「観光魅力アップコース(食のおもてなし専攻と観光地域リーダー専攻)」「グローバルコース」という四コース(コースによってはレベルとテーマで分ける)を段階ごとに設置。訪日外国人旅行者の受け入れに関するカリキュラム内容も充実しています。
・101頁・
・最上位コースの「グローバルコース」は県内でのインバウンドビジネスの起業が前提となっている為、研修を通じて塾生のマネージメントスキルを徹底的に鍛えます。入塾中に企画されたアイデアは講師陣からセレクトされて卒塾時にプレゼンされ、その中から知事表彰として最優秀賞一名、優秀賞二名が選ばれます。平成二八年度からは富山県が主催している「とやま起業未来塾」と「とやま農業未来カレッジ」との合同講座や塾生間の意見交換会も実施され、県内産業間の更なる連携を推進しています。近年は、北海道から宮崎県まで、全国から多くの自治体関係者や議員の方々が視察に来るようになりました。
「新幹線効果の誤解
・北陸新幹線開業後の石川県との比較で言えば、両県の分母の違いがあるので単純な実数比較は出来ませんが、観光庁やウェブ調査の数字を見ると富山県の方が石川県よりも伸び率が高く、全国でも一位となっています(観光庁「宿泊旅行統計調査」の延べ宿泊
・102頁・9/28/2023 2:46:55 PM
・数では平成二七年八月時点で前年比伸び率128%で全国一位。楽天トラベルの平成二七年夏季、年末年始期間でそれぞれ前年比一九一%、169%で伸び率全国一位)。この結果に対して「とやま観光未来創造塾」の貢献度は大きかったと確信しています。
・もし仮に、富山県が「富山らしい、富山ならでは」の商品やサービスを生み出すための人材育成ではなく、開業に合わせた単発イベントやキャンペーンしか手掛けていなかったら、宿泊旅行統計調査の数字は今よりも低く、順位も石川県よりも下位だったでしよう。
・新幹線や高速道路の様な高速交通網の開業直後の効果は、主に終点地域で高くなります。北陸新幹線の場合も旅行者のほとんどが金沢まで移動するのは当然であり、富山県「通過地点であるからこそ、新幹線から降りて宿泊して頂くための様々な目的や理由を用意しなければなりません。この様に、「富山らしい、富山ならでは」の商品やサービスを創り出し、それを永続的な事業として自立・進化させる為に、富山県は新幹線開業前から徹底した県内の人材育成に取り組んできたのです。
・富山県では全県をあげて「休んでかれ。」宣言に取り組んでいます。これは観光やビジネス等で富山県を訪れるお客様の受け入れ態勢を充実させ、「また来たい!」と心から感じてもらおうという事業です。
・103頁・
・全国各地でよく似た「ウェルカムキャンペーン」や「おもてなし宣言」を見かけますが、ほとんどが短期的なもので、予算をかける割には関係者でさえ他人事になっていることがあります。
・富山県の「休んでかれ。」宣言は、他県のキャンペーンと比べると予算もないに等しく、大々的な告知もしていないにもかかわらず、県民と事業者の自主的な取り組みとして続いています。補助金で作ったキャンペーン用のグッズは通常、関係者に大量にばら撒かれてもあまり使われないものですが、富山県では「休んでかれ。」とデザインされ缶バッジや卓上のぼり、座布団等のグッズの全てを参加する事業者が自腹で購入することになっています。また、「休んでかれ。」宣言への参加は専用ホームページから登録するだけという簡単なしくみで、登録費も無料です。実際に登録した事業者は観光関連事業者だけでなく、郵便局や建設会社等の異業種の組織もあります。
・全県をあげて「人材」を将来の「人財」とするための育成を地道に続けている富山県の方々を見ていると、北陸新幹線が関西方面へ全線開通した後でも、富山県がさらに「選ばれ続ける地域」になっているのではないかと楽しみになります。
・104頁・9/28/2023 3:01:23 PM
・国際水準とユニバーサルツーリズム
・この章の最後に、グローバル市場で競い合うことが当然の前提である観光・リゾート地が世界水準化する為の必要条件について触れたいと思います。
・重要なのは受け入れ地域として「ユニバーサルツーリズム」を徹底して推進することです。観光・リゾート地としてのポジションを明確にし、ターゲットを絞ったマーケテイングを行っていても、世界中から様々な観光客や旅行者がやって来ます。人種や性別、障害に対しての差別が無く、訪れた人々が誰でも満足して頂ける環境を整備する努力を続けなければ、「世界水準」と言える地域にはなりません。
・ワガママ放題の「モンスターツーリスト」に迎合しろということではなく、世界中に数え切れないほどある観 光・リゾート地の中からその土地を選んでくれたお客様に対して、「有難い」という気 持ちを地域としてカタチにすることが「ユニバーサルツーリズム」なのです。もちろん、バリアフリー化の取り組みは当然ですが、これもハード整備だけを指しているのではありません。大事なのは受け入れ地域の住民の態度や対応です。
・「ユニバーサルツーリズム」を実践する国際水準の観光地となる為には、地域住民の誇りある態度とコミュニケーション能力が不可欠です。
・105頁・
・それは日本語で言う「気遣い」であり、「持て成しの態度」です。 旅行者からすれば旅先での出会いは全て一期一会。だからこそ住民の方々には出会った来訪者との奇跡を大切にしてもらいたいのです。
・私が関わった地域では必ず「一期一会はいちごいちえ」を実践してもらっています。相手が旅行者だと気付いたら、まずは笑顔で挨拶する。可能ならば「どこから来たの?」「今日はお天気良いね!」等、もう一言だけ会話を続けてもらっています。これだけで 旅行者の当地に対する印象はとても良くなります。相手が外国人だからと言って身構えなくても大丈夫です。身振り手振りでも良いのでコミュニケーションしようとする気持ちが大切です。この様に住民が旅行者をどの様に受け入れようとしているかを態度で表すことが、実は国際水準化することの第一歩になるのです。
・旅行者は住民同士の人間関係が意外とよく見えています。人間関係がよくないところ来た旅行者が楽しいと感じるかどうか、再び来たいと思うかどうか、自分自身が旅行者の身になって考えればすぐに分かると思います。
・105頁・9/28/2023 3:25:18 PM・
第5章・エゴと利害が地域をダメにする・138~184頁まで入る。
「ゾンビ」の間違った首長が選ばれ続けている「改革派」にも要注意 行政が手がける「劣化版コピー」の事業補助金の正しい使い方/ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒/観光業界のアンシャンレジーム/JRの「ドーピングキャンペーン」 顧客フィードバックの不在 竹富町の革新的試み/自治体の「旅行会社依存体質」/有名観光地でゾンビたちが大復活!/観光庁の構造的問題
9/12/2023 8:29:23 AM
第5章 エゴと利害が地域をダメにする。
「地域ゾンビ」の跋扈
・藻谷・の山田さんの論考に出ていた「SATOYAMA EXPERIENCE」 は画期的な試みですよね。日本の人には「あたりまえ」の田風の国際的な価値を見事に実証しました。
・暮らしを旅する:SATOYAMA EXPERIENCE (satoyama-experience.com)
・山田、藻谷さんも私も。飛騨市と地球との関係は長いですよね。
・この地域への注目度は近年とても高くなってきました。実際、SATOYAMA EXPERIENCEのツアーはトリップアドバイザーでも
外国人からの満足度において最高評価を得ています。最近は美ら地球社長の山田拓氏も飛騨市のまちづくり協議会に加わったこともあり、地域全体の動きも加速しているようです。以前では考えられません。
・この地域でもいろんな争いがありましたが、若手と移住者の活躍で随分と変わってきました。
・139頁・
・それにしても、日本全国では相変わらず、一部の権力者による身勝手な行動や妨害が目に余ります。
・藻谷・ある町には、観光協会を牛耳って自己利益を図っている地元旅館の二代目オーナがいました。観光協会にうっかり問い合わせしてきた客を自分の旅館に誘導したりしていたのです。そうした行為に反対する人たちには、公私でいろいろ圧力をかけるので、町外に引っ越した人もいます。地元のゾンビ経営者は、そういう私物化を平気でするんですね。
・山田・こういう話をマスコミは全く報道しない。地元のマスコミは、イベントを企画する側と広告等で繋がっていることが多いので報道できない。
・藻谷・まともな人なら、観光協会の私物化がひどいと早晩お客さんが来なくなるんじゃないの?」と思うでしょうが、この町の場合には単発のビッグイベントが時々行われていまして、日ごろは客の入らない旅館もそのときの稼ぎで延命できる構造です。こうしたやり方で生き延びた人物が、選挙に出て公職を得たりするので、さらに始末が悪い。先代の遺産で顔の広い二代目が、経営力はなくとも人当たりの良さで可愛がられて、田舎の増進階段を登って「地域ゾンビのボスキャラ」に成り上がるわけです。そういう種の人の中には、実業から足を洗って地方政治家になってしまう人も多いそういがするとでもまともな議論が行われなくなり、事業が成り立っていてしい人は、つきあいきれないのでますます政治と距離を置きます。
・140頁・9/12/2023 8:43:31 AM
・間違ったが選ばれ続けている
・藻谷・首長が代わることで、営々と積み上げてきた地域振興の努力が吹っ飛んでしまうということも、あちこちで目撃します。関係者に迷惑がかからないよう、当事者がもう辞めたケースをご紹介しましょうか。
・山間地のある市の話ですが、平成合併の際に、まちおこしで有名だった旧A町のキーパーソンたちが、旧B街の人物を市長に担ぎました。そのまちおこしグループ 市は良好な関係を続け、いろいろと面白い企画が花咲いたのですが、他方で市長は、まちおこしとは別にいろいろな箱モノ投資に走り、借金が積みあがったのです。八年後 それを批判して当選した新たな市長は、まちおこしグループとも冷えた関係となりました。 新市長在任期間中にその市で行われた。 地域振興関係者の全国大会のことは忘れられません。大規模な行事で県知事も挨拶に来たのに、市長は知事と同席しなかったのです。
・141頁・
・まちおこしのリーダーで大会の最大の者だった人物も、いろいろ圧力がかけられていたのでしょう、顔を出すことができないままでした。知事にも参加者にも失礼な話ですが、外からどう見られるかよりも、小さな市の中での権力闘争の都合の方が優先されたわけです。そうした冬の時代が八年続き、その市発の面白いニュースがすっかり聞かれなくなった後、ようやく企画マインドのある若い人物に市長が交代して、いろいろな活動がまた活性化しつつあります。
・山田、実際、そういう地域では役所や役場の職員がどんどん辞めていますよね。都市部や地域外からやって来る若手の新しい職員は地方で働くことに希望を抱いている分、実情を知り、自分ではどうしようも出来ない状況だと分かると辞めていく。もしくは、うつ病になって休んでしまいます。
・最近は首長だけでなく、副市長や副町長が滅茶苦茶な指示を出すこともありますね。
・某市でも観光課に配属された職員の心が次々と折れてしまっています。そこはイベント大好きな副市長がいて、職員がどれほど良いアイデアを持って行ってもほとんど却下し、自分のアイデアを押し付けて強引にやらせている。若手職員だけのプロジェクトチームをたち上げたとしても、自分の意見を無理やり反映させることだけに利用していて、表向きは如何にも手からの自主的な意見と活動のように見せているのがズルい。
・142頁・9/12/2023 8:58:20 AM
・地元に市民活動や地域づくりなどで活躍している素晴らしい人材がたくさんいるところなんですが、行政が全く連携しようとせず、とても残念です。
・藻谷、どうしてそういう政治家たちが選ばれてしまうのか。これは日本全体で共通しているんだけど、政治家を選ぶ住民側の基準が間違っている。地方でも国政でも、投票行動的を合理的に行えない有権者が余りに多い。
・もちろん、候補者を選ぶ仕組みもできていない。それでも、「相対的に見て、こっちの候補でしょ」というのはあるのですが、そっちのほうが勝たないケースが多い。候補者と有権者のダブルで問題があるんです。
・日本海側のある小さな話ですが、市が進めていた道路拡幅計画に反対するグループが、町並み保存と経済活性化をセットにした活動を続けています。彼らの始めた各種の集客イベントが全国的にも有名になり、JRや地元温泉街などの協賛も得るようになりまして、推進だった市長が事業取りやめの姿勢を見せました。すると、その次の選挙で拡幅推進を掲げた別の人物が市長に当選したのです。ところが市長になってみると、拡幅反対側のやっている事業の全国的な知名度に初めて気がつく。他地域の人に会うたびに、そのイベントの話ばかり出るのですから。そこで四年の間に、やっぱ拡幅を取りやめの方向に動くことになった。
・143頁・
・そしたらまた四年後の選挙で、さらに新た人物が、拡幅賛成を掲げて当選してしまった。当選した後に市外の評価に気付いて往生するのも、過去の二人と同じです。ただこの三人目の市長は、地元の旧来勢力もグリップする政治力があり、結局拡幅を取りやめましたし、幸いにも次の選挙でも落選しませんでした。
・山田、結局、政治屋になりたい人ばかりが出て来るのですよね。政治家になって欲しい人を選ぶしくみだけでなく、投票行動にもなっていない。
・藻谷、政治にたまたま見識がある場合でないと、いろいろなことが台無しになってしまう。ちなみにスイスはなぜそうならないのですか?
・山田、「しなやかな日本列島のつくりかた」でも藻谷さんに詳しく話したことですが、結局、その国や地域の民度や知性、教養の話になってくると思います。政治家を選んでいるのは住民ですから。もちろん、スイスだって善良な人ばかりではないですが、議論があまり情緒的にならないのは確かです。好き嫌いとかではなくて実務能力で測っている。だから、「これはこの人にやらせたほうがいいよね」という判断が、感情論じゃなくて論理的になされるわけです。もちろん推された人も、みんなから指名されるだけのことをやってきたわけだから豆やスキルもあるし、地域のことを真剣に考えてもいるから尊敬もされている。
144頁。・9/12/2023 5:04:33 PM
・藻谷、今話しているNPOのリーダー選びに似ていますね。
・山田、スイスの場合、議員は日本のように職業化していませんからね。
・藻谷、スイスは血縁原理ってあるんですか。
・山田、あることはありますが、日本ほど能力も無い人間なのに血縁だからという理由だけで何かを任せたりすることはないです。そもそも実務面で出来ないようなことまでやらせることはないですから。そんなことしたら一が滅亡しますよ。
・藻谷、日本では政治家の血筋だと、それだけで正当性が三〇%アップみたいな感じです私の出身地の国会議員にもそういう人たちがいるのですが、地元民と話していると、どうも彼らの多くは実務能力で評価されているわけではない。国会議員の地元事務所の国家老や金庫番と、県議会議員有力者が手を組んで、国会議員座敷に上げて専横を振るっているケースも見聞きします。
・にもかかわらず、地元を押さえられない国会議員の方が、国政では強気で売っているケースもある。他方では、見識もあるし地元の悪い話には一切かかわっていない人もいてさまざまですが、何にしても有権者側の投票行動は「その血筋に任せて、あとは祈る」という感じです。
・145頁・
・山田、沖縄の離島の首長に会って地域振興の話をすると、時々、その反応に驚かされます。どの島でもいろいろな地域再生や活性化の試みがあるのですが、某島の町長は「観光振興などよりも、振興なんかよりも、もう一つ港を作ってくれた方が島と我々は活性化するんだ」と真剣に思い込んでいる。人間的にはすごくいい方なのですが、何を言っても最後には「地元のサトウキビとかを使ってチマチマ商品化するよりも、数百億円かけて港をもうひとつ作ってもらう方がいい」という話にしかならない。でも、そのお金は港の事業を大元で請け負う大手ゼネコンに流れることで彼らが一番儲かる仕組みになっている。島民も地域に根ざした継続的な地域振興にはならないことをわかっているのですが、そういう大きな公共事業でを何とかしたい町長を選んでしまう。
・藻谷、島民一人ひとりに聞いていったら、たぶん「おかしい」と思う人が多数派だと思うんですよ。だけど、それが政治のイシューにならない。有権者は、「任せてあとは祈るだけ」の遣唐使船みたいな状態です。そんなら航海術を研究しろよと思うんだけど、有権者にも「とりあえず祈っとけ」みたいなマインドがあって、旧来型の首長が 地域をぶっ壊すのを止められない。
・146頁・9/12/2023 5:40:39 PM
・「改革」にも要注意
・山田、一方で難しいのは、改革をうたう若い首長だからいいっていう話でもないことです。実は、いま藻谷さんがおっしゃった有権者の
「任せて祈る」は、こういう改革派の首長でも一緒でして実務的観点からだけで選ばれているわけではない。彼らがやっていることには、正しいこともそうでないこともあるわけですが、こちらが少し意見 すると、「人格否定」と受け取られかねないのは一緒です。すると、「俺が言っているんだから間違いねえだろ!」みたいな話に最終的にはなってしまう。もちろん、全ての改革派の首長がダメだと言ってるわけではないのですが、見極めが難しいです。
・藻谷、橋下徹スタイルですね。個別の事案ごとに、ちゃんと議論するっていうことではなくて俺を信用しろ」と選挙で全権委任を取り付けて、異論を振り切る。ロゴス (理)による説得ではなく、エートス (人格)を任せよ、と。
・私もよく「藻谷さんは安倍首相が嫌いなんですね」なんて言われるのですが、彼に限りませんが私は好き嫌いでは判断しませんし、犯罪でもしない限り人格批判もしない。やっていることの当否をロゴスで判断しているだけです。アベノミクスの金融緩和が開違っていることは一致して指摘していますが、若者の賃上げや女性の活躍推進は基本的に賛成です。
・147頁・
・山田、私も最近の講演では、地域振興や再生の問題は、突き詰めると全ての原因は「エゴと利害」であるとはっきり言っています。人間社会だから仕方ないところもありますが、どれだけ良いしくみや組織を立ち上げ、計画を進めようとしても、地元のしがらみ 好き嫌いで判断されてしまった結果、全てが崩壊することがあります。
・行政が手がける「劣化版コピー」の事業
・山田、実は、「地方創生」に注目が集まっているがゆえの弊害だと思うのですが、行政による劣化版コピー」みたいな事業が以前より多くなっています。他地域の成功事例をそっくり真似たものもあれば、もともと地元で革新的なことをやっていた事業者の試みそれこそ感情でつぶしておいてから、それを乗っ取るか、模倣したような事業 を行政が手がけるというケースです。
・以前、九州某県の温泉で有名な地域で、古民家を拠点にして地域の活動を市役所と一緒にいろいろと頑張っていた人たちがいたのですが、今はみんな行政から離れてしまった。
・148頁・9/12/2023 5:56:15 PM
・成功の芽が出てきたところで市役所が主導権を握り、民間の発案者はいいように使われ、最後には手柄を市役所がもっていってしまったからです。結果、観光で生きている町でありながら観光を支える地道な活動や基本的な部分がダメになってしまいました。事実、お客は来ていない。
・藻谷、確かにあそこの温泉には、基本のキが出来ていない宿がありますね。
・山田、こういう場合、事業者や住民と行政の一番のミスマッチが生じるのは時間軸の問題です。民間で創意工夫をしている人たちは、長い時間をかけて継続的に地域の価値を高めようと考えているのに、行政が介入すると否応なく単年度主義に付き合わざるを得なくなる。そして必要も無い単年度の補助金を無理やり押し付けられ、その結
その一年で事が終わってしまう。
・例えば、ご当地グルメを作るにしてもイベントをするにしても、行政はコアになる人をうまく巻き込むわけです。巻き込んで一つの事業を立てる。ところが、行政は事業者が過去にやってきたことも全部吸い上げ、「この事業は民間の発案ではなく、行政がきっかけを作ってやってきたものです」という形にされてしまう。これは国レベルでも起きています。省庁が出してくる成功事例と言われているものにもこのパターンがある。
・149頁・
・そんな様子を見ていると、関わっていた人たちがアホらしくなって逃げ始める。気が付くと最初にイニシアチブをとってやっている人たちはどんどん孤立してしまう。また、地域を巻き込んで事業をやろうとしても、下手に行政が出てくるとろくなコトにならないとわかっているから、自分がやれる範囲での事業に限定した方がマシだ、という話になる。そういうロジックが働いてしまうわけです。 実は、行政側でも住民のことを分かっている人がいる場合もあるのですが、 分かってない上司の「感情論」が入ると途中で担当者が代わり、単なる予算執行屋みたいな人に差し替えになったりします。
・藻谷、だからこそ山田さんは、行政の一存や補助金の都合で活動が左右されない住民主体の仕組み、つまりブルガーゲマインデのような団体や組織を作ろうとしているわけですよね。
・02_【参考資料1】スイス・ツェルマットの事例.pdf (env.go.jp)
・山田、はい、そこはかなり意識的に狙っています。事業単位ではなく、地域単位で永続的な活動を進めるためには住民主体の公的な組織が必要だと考えていますから。
・それにしても、地域振興をより推進するためにいろんな補助金制度がありますが、このようなお金が最近はとても怖いものだと思っています。やる気があって頑張っている人たちでも補助金をもらった途端に人格まで変わることがありますから。ほとんど麻薬です。
・150頁・9/12/2023 6:18:40 PM
・うっかり必要もないなお金を一時金としてもらってしまったために、やっている人たちの関係までもガタガタになったり、行政への依存度が高くなって活動が自主的に続かなくなるというパターンもやたらに多い。藻谷さんもご存じだと思いますが、補助金をもらうと高い確率でおかしくなります。
・藻谷、私は山田さんと違って講演で上っ面をなでているだけで、本当に信用できる限られたケースでしかお金の世界には入らないようにしていますから、そこまで生々しい事例に遭遇することは多くないですが、確かにそういう面はありますね。
・山田、多くの場合、行政側は活動を始めたばかりの団体や組織、もしくは、事業の芽が出始めたときに補助金の話を持っていくわけです。「こういうのがあるよ」と。特に新しく立ち上がったばかりの事業者は金銭的に苦しいところが多いので、ついつい手を出してしまいます。
・結局いつの間にかほとんどの団体、組織がずっと補助金に依存する体質になってしまう。だから本当に麻薬です。それと、お金に負けなかったとしても補助金をもらうためには様々な条件があり、手かせ足かせになるようなしばりが多いので本当にやりたいことが出来なかったり、本質から外れた事業になってしまって失敗するパターンもあります。
・151頁・
・補助金の正しい使い方
・藻谷、逆にいうと、地域振興のための補助金で有効なケースというのはありますかね。
・山田、ダメなところは補助金をもらって使って、それで終わっています。そもそも、自立していくために稼ぐことを真剣に考えて実践しているところでなければ何をしても自滅します。だからこそ補助金を受ける側がよほどしっかりしていなければならないのですが、上手く活用しているところほど自分たちの活動目的や性格に合った補助金制度にしか手を出してないです。
・そういう意味でも、飛騨市古川の美ら地球は、補助金制度を上手く活用した事例だと思います。SATOYAMA EXPERIENCE を軌道に乗せるまでの二年間を県庁からの公募事業用の補助金で乗り切りました。彼らの事業がどれだけ将来性があったとしても、地元金融機関からすれば見たことも聞いたことも無い新規事業ですからリスクが高いと判断するのは仕方無いですからね。たとえ補助金を使ったとしても、事業を継続的に進めるための一時的な補助エンジンぐらいと捉えてなければ、気が付かないうちに依存体化してしまいます。 自分たちの目的を達成するために補助金を限定的に使うのですから使う側には相当な覚悟としたたかさが必要だと思います。
・152・9/12/2023 6:36:44 PM
・例えば、観光振興でよくありがちな集客のための補助金でも、しっかりしているところはマーケティングの精度を上げるために普段は出来ないような広域的な基礎調査やオープンビッグデータの解析等に使うことで次の事業展開に繋がるようにしていますが、ダメなところはすぐに「プロモーションが大事だ!」とか言って宣伝や広告、広報だけに使ってしまって終わっています。
・藻谷、でも悲しいかな、マーケティングと宣伝の違いすら理解している人が本当に少ない。中身を改善せずに宣伝だけすれば逆効果でしょう。
・本当に長期的に腰をすえている地域では、関係者が私財を投じていますよね。たとえ 広島県福山市の鞆の浦。 江戸時代の技術で造った港の設備がそのままに残って今でも使われています。世界でも稀なので、イコモス (世界遺産の選定においてユネスコに助言する国際専門家会議)から「早く申請しなさい」と促されている地域です。
・古い町並みも残り、「皮の上のポニョ」や「流星ワゴン」の舞台にもなった場所ですが、広島県地元の福山市は、埋め立てて駐車場にし、残る半分のまん前にかけて橋を通すという計画を、それこそ四半世紀越して推進してきました。
・153頁・
・そうなると世界遺産にはなれないのですが、当局はそんなものはどうでもいいという態度。この暴挙を止めるための一進一退の活動は、涙なしでは語れないのですが、普通の勤め人の奥さんであるキーパーソンをはじめとして、多くの人が、壊れゆく建物を守るために私財を投じていますよ。私も巻き込まれてお付き合いしています(笑)。
・山田、本当は、地域全体のマーケティングのための調査費用や、文化財等の維持管理、景観修景のような整備には公金の投入も有効な場合があります。歴史的建築物や景観等のハード的なことだと補助金を使ったら間違いなくきれいになる。例えば、熊野川は三重県と和歌山県の県境になっていますが、自然災害で壊れてしまった後、双方の景観を合わせましょうという統一ルールができるようになった。こういう部分では復興だけでなく景観を良くするための整備に公金をつけることは有効だと思います。
・基本的にはハード整備より、小さな組織や団体、民間事業者だけでは出来ない地域の人材育成には行政がもっと主体的に仕掛けてもいいと思っています。もちろん、稼げる人材育成でないと困りますけどね。
・154頁・9/12/2023 6:46:03 PM
・ボランティアガイドは「ストーカー」と一緒
・藻谷、熊野古道は補助金も生かして、観光地としては飛躍を遂げた事例だと思うのですが、その中のガイド養成事業というのはどうなったのか、気になります。
・山田、ガイド養成事業にも補助金はついていますが、残念ながらプロのガイドを養成するところにまでは至っていないです。全国的だと思っていますが、本来は地域のサービスとしての稼ぎでなくてはならないガイド事業なのに、日本ではボランティアガイドがメインになっています。私が関わったガイド養成のプログラムからはプロで稼ごうとするガイドが出てきていますが、まだまだ多くはないですね。
・藻谷、行政がすすめているガイド成事業についても、山田さんは「ボランティアガイドばかり増えていてプロとしては使えない」と指摘されていますよね。熊野古道などではガイドをちゃんとプロにするぞという考えを持って、養成事業に税金も使ってきたわけですが、これは相対的にはマシと言えるんでしょうか。
・山田、これも全国的に同じ問題を抱えているのですが、どこも的を射ていないというか、極めて効率が悪い。例えば、行政が主催するガイド養成講座は平日の昼日中に開催することが多く、基本的にリタイアした暇なおじさんおばさんしか参加出来ません。
・155頁・
・しかも、稼ぐ気がなく生涯学習講座のような感覚で参加しているので、ビジネスの話をすると文句を言う人までいます。これでは、他に仕事を持った人たちや既にガイド業で活動している人たちがスキルを磨いて食っていきたいと思っても参加出来ません。
・きつい言い方に聞こえるかも知れませんが、私は「質の低いボランティアガイドはストーカーと同じである」と言っています。相手が何を望んでいるのかも確かめず、自分の知識をひけらかすように上から目線でひたすらしゃべり続けて観光客につきまとっているわけですから。
・藻谷、私も、本来は地域の貴重な雇用になるはずのガイドをボランティアガイドがかき乱すのはちゃんとしたラーメン屋の店先で、「こっちならタダだよ」とカップ麺を出すようなものだと言っています。 しかもお湯がぬるいのを。やるならお金を取るプロになってもらわないと困ります。そういう成長事例も見聞きはしますが。
・それから資格でもある通訳案内士は機能しているのでしょうか?
・山田、通訳案内士に関しては、試験が始まって六〇年以上が経過しましたが、現在、約二万人が登録されていて、これだけ訪日外国人旅行者が増えて需要があるにもかかわらず、実際にガイドとして活動している数は約三〇〇〇人に満たないのが問題です。
・156頁・9/12/2023 7:00:52 PM
・資格自体も難しく、地域特性を活かすため等の理由もあり、地域限定通訳案内士の制度も出来ましたが、現場で活躍するガイドはそれほど増えていません。規制緩和も必要だけど、相変わらず無資格のブラックガイドも放置されたままなのが大問題です。通訳案内士規制緩和の方向ですが悪い人材が増えるのは困りますね。
・今後、日本の文化という外国人のニーズが増えるのは確実なので、 そのためには、着付け、茶道、蕎麦打ち、寿司づくりまで様々な講師と通訳案内士の両方が必要だと思います。実は、都内にある日本文化体験交流というNPO法人ではこれらの問題をするような人材育成を行っています。語学力のある通訳案内士を各種体験として出来るように育てているのです。
・藻谷、確かに体験の専門講師の語学力を上げるよりも、言葉のしゃべれる通訳案内士がいろんな体験になった方が簡単で効率的だ。
・山田、ダメなガイド事業と同じ問題ですが、全国各地には全く売れないひどい体験プログラムやツアーがたくさんあります。しかも、売れてない地域ほど何も改善せずにダメなまま売り続けてしまう。それでも全国的に見れば、以前に比べればガイド事業で稼げるようになっているのは確かです。特にエコツアーガイドによる体験ツアーは各地で入気が出てきました。
157頁・
・近年、ラフティングやカヌー、ホーストレッキング等のアウトドア インストラクターも、レッスンと共に自歴や歴史、文化等に関する解説能力が高くなっています。どの様なフィールドであっても、現在活躍しているプロガイドの多くは、お客様の満足度を高めるために専門性やエンターテインメント性、解説、リスク管理等のスキルを向上させようと日々努力しています。これからは若い人を中心に稼げるガイドは増えていくと思いますよ。
・観光業界のアンシャンレジーム
・藻谷、ボランティアガイドや売れない体験ツアーの問題は、プロダクトアウトの宣伝ばかりでマーケティングがないという大問題ともつながっています。
・でもそれを言うなら、マーケティングが一番欠如していて、一番間違った使い方をしているのは、各種代理店だの宿泊事業者の運輸事業者だのといった、昔からある観光事業者の方ですね。山田さんと付き合う中でイヤと言うほど見てきたのは、「補助金で食ってる人たちがたくさんいる」という現実にひどいのが、多くの旅行代理店と広告 観光協会。ずさんな観光行政をしているところでは、 「ダメな旅館」も受益者です。
・158頁・9/12/2023 7:10:46 PM
・これがどういう構造になっているかというと・・・。
・山田、観光はお客様を受け入れるが地域全体で稼ぐことが基本です。
・ところが、地域全体で稼ぐビジネスのマーケティングは、日本国内ではほとんど誰も実施したことがない。マーケティングとは「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動の全て」ですから、観光については
本来なら各地の観光協会や観光などがその役割を果たすべきですが、どこもそのよう活動を全くしていません。マーケティングを行っていなければ、商品やサービスの企画がマーケットイン的発想になるはずもない。
・観光協会やそれに準ずる組織は、地域内の民間事業者が外貨獲得で稼ぎたいからこそ集まっている組織ですから。本来は行政から補助金を出すこと自体が不自然なのです。それなのに、多くの観光協会は役所や役場が丸抱えしている組織となってしまっています。これでは稼ぐことを前提とした事業化など絶対に出来ません。
・では、そのような組織には行政からどういう風に補助金が流れているのかというと、まず予算のほとんどは観光協会の人件費で消えています。観光協会が自主財源をもって自主独立でやっているところなんてほとんどない。
・159頁・
・株式会社として活動しているニセコなんで極めて稀有な例です。そして、人件費以外は主にプロモーション活動という名の宣伝・広告活動費と単発のイベントの開催費用にお金が消えていきます。本当は、お客様の満足度向上のための調査や事業化等、つまり本来の意味でのマーケティングにお金が使われていないとダメなのですが・・・。
・藻谷、「とりあえず観光協会で電話番雇ってます」ってことでお金が消えている。そして、効果のない宣伝と、意味の親視察旅行を続けていると。
・山田、はい。誰も読まないパンフレットや誰も見ない宣伝用ポスターにお金が使われています。一番イタイのがキャンペーンというイベントに湯水のようにお金を使うことですけどね。
・藻谷、地方の印刷業者や中央大手の広告代理店は、それで相当食ってますよね。
・山田、もしくは思考停止している他力本的な観光協会だと、その少ないお金を持って旅行会社に駆け込みます。「うちを売ってください」とお願いに行くわけです。
・藻谷、その上に旅行会社へバックマージンを払うんですね。で、旅行会社はそれで何をするかというと・・・・・・。
・山田、とりあえずお金を持ってくれば最低でもパンフレットには載せますよ。ですがこのネット時代に、旅行会社のパンフレットを見て旅行先を決めようとしている人は、基本的に高齢者だけだという調査結果があります。しかも、資料として手に取っているだけで旅行品を買っているわけではない。なのに市町村よりも予算がある県の観光連盟あたりになると、パンフレット頼みがさらに顕著になりますね。
・藻谷、地域の観光協会の上に県の観光連盟があって、そこには県から直接事業費補助金がいくわけですね。そこが地域観光の元締めなけだけど、やっていることは大体、大手旅行代理店に税金を流すパイプ役。
・山田、しかも都道府県単位の観光連盟や観光コンベンションセンター、観光推進機構あ たりになってくると、地元の観光に関係するいろんな団体や会社から出向として人が来ている。当然ながら出向者は自分の出向元の方を向いていて、自分のところに客と金を 回すような事業を考えがちになる。これは大手旅行会社や代理店から地方の観光協会の事務局長や専務理事に出向しているケースでも同じです。するとどうなるか。一ヶ所で長期のバカンスを楽しむ「滞在型」を進めようという話が進まなくなるのです。鉄道会社やバス会社は移動してもらわないと稼ぎになりませんから。
・161頁・
・藻谷、本当は滞在型を増やしてはじめて、地域にお金が落ちて活性化が図られる。ところが一ヶ所に長期滞在されたら、お金が旅行代理店事業者に落ちないので困る。だから、観光連盟や国までもが「周遊コース作り」という訳の分からない作業をやるわですが、いまどき 「周遊」なんて全く客ニーズに合っていない。そんなところが作った周遊コースをたどるなんて、外国人団体でもやらないでしょう。
・山田、今、国内旅行は個人客が中心で、周遊よりも一ヶ所での連泊を選ぶ方が多くなっていますから。しかし、受け入れ側は、自分たちで直接お客様へ売るという一番利益が手元に残るようなことはあまり考えていません。BtoB(対事業者)には熱心なのですが、BtoC(対消費者)はほとんど無視です。
・多くの県庁や観光連盟が「観光素材説明会」なるものを開催しています。旅行会社を集め、「素材を提供するのでコースを作ってください」という究極の他力本願なことが行われています。自分たちが持っていない販売チャネルを持っているのが旅行会社なのですから、協力関係を築くにしてもそれぞれの役割があるのですが、ほとんどの場合が何も考えずに丸投げしている。
・実際、旅行会社も困っていると思います。「お金を出すから当地のコンテンツを足し合わせてツアーを作ってくれ、ついでにお客様を連れて来て」と言ってくるわけですか
・162頁・9/13/2023 8:19:47 AM・
・藻谷、そしてそれらを組み合わせて周コースというセットメニューにすると、みんなそのセットメニューという「定食」を食べるだろうという発想ですね。
・山田、「マーケットイン」や事業化で自ら稼ぐという発想にならないのは、そういう構造的な問題がすごく大きいです。この中でBtoCをやるとなると、お金のバラまきに終わってしまう。例えば、プレミアム旅行券のような割引券を各地域が発行するという発想です。これは個人旅行者に対するディスカウントにしかならない。しかも、そのプレミアム旅行券の販売までも旅行会社や代理店に委託するわけです。
・藻谷、ディスカウントをすると、ディスカウントして来た人の分だけ売上げは落ちる。言うなれば「いま買うと安いよ」というキャンペーンを家電量販店がずっと打ち続けて、そうするとみんな欲しいものを買い揃えて行かなくなる、みたいな話。
・JRの「ドーピングキャンペーン」
・山田、この割引キャンペーンが怖いのは、頑張っていいサービスや商品を作っている地元の真面目な事業者がやる気をなくし離れていってしまうことです。
・163頁・
・なぜやる気をなくすかというと、「あなたたちの提供しているサービスや作った商品は補助金をつけて安くしないと売れない価値のないものだ」と言われているに等しいからです。だから、意欲的な事業者ほど観光協会や観光連盟に協力しなくなる。そもそも、そうした事業者は直接お客様に対して売るべく商品を作り、それだけの価値とそれに見合う値段を付け、事業としても成り立たせている。それなのに、いきなり大きな枠組みの中で、「値段を下げてくれ」という話に巻き込まれたら、迷惑そのものです。
・藻谷、つまり観光協会や連盟が売ろうとするセットメニューは、基本的にネット直販できないダメな旅館に泊まって、他所産の量産品しか売っていない土産物屋をバスで回ります、みたいなツアーになりがちなわけですね。補助金を入れて安くしたツアーに人数が集まるのを、自治体も首長も成果だと誇る。その繰り返しになっている、と。
・山田、単純な割引キャンペーンよりも更に怖いと言われているのがJRの「デスティネーションキャンペーン(DC)」です。 最近は「ドーピングキャンペーン」と呼ばれていますね。DCの場合、それこそ地域内の全観光事業者が巻き込まれるので、嫌でもついていかなきゃいけない場合がある。実際、DCを仕掛けた後にして売れているという地域はほとんどありません。キャンペーン後はどこも数字を落としていますから。
・164頁・9/12/2023 7:49:30 PM
・藻谷、どこがキャンペーンしているかは、首都圏民はほとんど誰も気付いてないですよね。キャンペーンの現地では、無理矢理買い叩いたものを安いセットにして出している わけですが、安い定食をたくさん食べたい客なんていまどき少ない。
・ところで、いま旅行代理店を使って旅行する人、全体の何割ぐらいですか。
・山田、パッケージツアーから鉄道の切符の購入だけも含めて、旅行会社を使って宿泊を伴う旅に出る人は全体の約三割です。
・藻谷、その中には、なじみの代理店に切符だけ電話注文している人も多いでしょう。しかもネットを使う若い世代はあまり代理店にはいかない。高齢者中心の客単価の低い小さな市場相手に、大きな補助金を使ってしまっている。それに付き合わされる事業者のほうも、わざわざ安い値段で商品を出させられる。でも、ちゃんとした金を払ってくれるので安い金を払ってあっという間に去って行く客が同時に入っているようだと、場の雰囲気がおかしくなります。
・山田、そういうキャンペーンやパッケージツアーに組み込まれてしまうと、値段だけでなくて内容も変えられてしまいます。例えば、地元で苦労して企画した一日ツアーや半日ツアーが注目を集めて売れているとします。
・165頁・
・それには利益が取れるだけの値段も付いている。もちろん、ターゲットとした顧客もしっかりとグリップしています。ところがキャンペーンやパッケージツアーの中に入れるとなると、「周遊コースに入れるから半日ツアーを二時間にしろ」とか「一日のツアーを半日にしろ」といった無理筋の要求が出されるわけです。そうすると、地元が考え抜いた素敵なツアーの一部分だけが「つま みぐい」され、本来の魅力や良さが伝わらず、お客様の満足度も下がってしまいます。
・同じ問題は食事でもあって、折角の料理も低価格化させることで内容をダメにする。
・藻谷 そういうことを組織的に繰り返しているのが観光キャンペーンであると。じゃあ誰がそれで受益しているかというと、キャンペーンに絡んでいる広告代理店、ボスターを刷ってる印刷業者、バス会社、それから薄いマージンを取れる旅行会社。
・山田、あと、普段はお客様がさっぱり入らないダメな宿も。
・藻谷、そんな宿に限ってヒマなのでオーナーが議員をやっていたりして、政治力があったりするわけです。なるほど、大型イベントも含めたキャンペーンがドーピングだっていうのは、そういうダメな事業者の延命になっちゃってるからですね。行った人は不満でも「安いから仕方ないか」となって、二度と行かない。他方でつぶれるべきものが淘汰されないと。地域のブランド価値も毀損してしまう。
・166頁・9/12/2023 8:11:48 PM
・山田、世の中格安パッケージツアーファンも少なからず存在しているのもどうかと思うのですが(笑)それと、いろんな地域で「プレミアム旅行券」のような割引キャンペーンを前からやっていますが、その結果や内容等を調べてみると、購入者のほとんどがハードリビーターかビジネス客だったということがあります。補助金で割り引か 来てくれる人にわざわざ安くしてしまったという結果にしかなっていない。新規顧客にはまったく繋がらなかったということです。
・藻谷、補助金で今あるものを安くするというだけで、商品開発という考えがない。
・山田、あるものをとにかく安く叩き売るか、特典を山盛り付けて売るという考しかないようです。しかも、商品化することで利益を上げずに素材だけを叩き売ってしまうので、素材も消費されるだけで価値が下がります。
・顧客フィードバックの不在
・藻谷、商品開発するのに絶対必要なのが顧客フィードバック。顧客フィードバックを集めるシステムがないところで、手探りでディスカウントなんかしていれば、業界全体が死んでしまう。
・167頁・
・スイスの場合は、エリアごとの顧客データベースがあるわけですか。
・山田、スイスはもちろん、欧米各地域単位で顧客データベースを持っているところは多いですね。それはなぜかというと、お客様が宿泊時に記入している個人情報を各観光局が一括して管理しているからです。その顧客データを地域全体のマーケティングに徹底的に活かしています。また、他国では当たり前の宿泊税の導入が宿泊客のデータを集める元にもなっています。
・日本でも東京は宿泊税を宿泊代が一万円以上の場合に限って徴収していますが、純粋に都の税収だけの話になっていて、宿泊者の情報を観光や地域のマーケティングに活かそうということにはなっていません。日本では個人情報保護法の壁があるので、宿泊者の情報を勝手に二次利用することも出来ない。食中毒が出たときに保健所でチェックが入ったり、警察の犯罪捜査に提供されるくらいです。
・ですが顧客データベースは、現在の「マーケティング4・0」の世界では絶対に必要なものです。これまでマーケティングも「1・0:商品・製品中心志向」から「2・0:顧客の機能的満足」「3・0:顧客や精神的満足」と進化してきました。そして現在の「4・0自己実現満足」では、顧客が享受する商品・製品・サービスにより要望が達成されたかどうかの結果が重視されます。
・168頁・9/12/2023 8:24:51 PM
・某トレーニングジムのコピーじゃありませんが、「結果にコミット」することを続け、お客様の満足度とリピート率を上げるためには、個々のお客様のニーズとウォンツを絶えず捉えなくてはなりません。そのためには、顧客データベースでCRM (顧客関係管理)を構築し、CLTV 顧客生涯価値の向上を推進することが重要です。
・いまどき、コンビニエンスストアから百貨店、航空会社まで、顧客データベースを活用するのは当たり前になっています。それを、本来は究極のワン・トゥー・ワンが求められる観光の現場が地域として持っていない。そうすると、下手な鉄砲を的も絞らずに大量に撃ってしまうことになります。しかも、ほとんど当たらない (笑)。
・藻谷、個人情報保護法の形式的な適用という問題もありますね。観光立国を国策としてやるんだったら、特に訪日外国人旅行者向けにはそういうところも変えましょうねという話をしないといけない。
・山田、そうなのですが、そのときに「では、どこがやるんですか?」という話になるのです。今の観光協会や観光連盟の仕組みや人材では現実問題としてマーケティング4・0までは実施出来ないですから。
マーケティング1.0から4.0までの変遷を解説|時代とともに変化したマーケティングの流れを知ろう |マケフリ (makefri.jp)
・169頁・
・藻谷、2・0でも無理でしょう。そもそも既存の旅行代理店からすれば、「プロの顧客」が育つのはまずいんですよ。基本的に素人に「こんな商品はいかがでしょう?」とすすめることで成り立っている商売ですから。仕入れている商品の素材も、ネットでの直販ができないような時代遅れの旅館とか土産物屋ですから、目を育てていない顧客と能力の低い事業者がいなくては、自分たちのビジネスが成り立たない。
・山田 実際自分たちで売っていける宿や観光地は、旅行会社に依存しなくなってきて います。そうすると、ダメなところほど旅行会社に頼って延命をはかるという構図がますます強まりますね。
・竹富町の革新的試み
・藻谷、逆に言うと、継続的に価値を高め続けている日本の観光地って、どういうところがあるんですか 例えばニセコって何をやってるのかな?
・山田、ニセコは、そのペースができたところだと思います。観光協会も株式会社になり、マーケティング的なことをやろうとしている。 ただし、まだ顧客データベースの構築までは行っていません。一方で、顧客データベースの構築から進めようとしている場所があります。
・170頁
・藻谷、どこですか。
・山田、沖縄県竹富町です。二〇一五年の春に「島々サポーターズクラブ」というファンクラブを作りました。そのクラブカードにポイント制を導入したのです。竹富町には九つの島がありますが、各島への移動、お店で集めた行動履歴等を地域で共有して全体のマーケティングに活かそうとしています。今後、このファンクラブカードを持った個人のデータがとても重要になります。このしくみづくりの提案と実施段階では私が お手伝いをしました。
・藻谷、それには店や宿にカードリーダーが必要ですよね。
・山田、竹富町では、地方創生の取り組みの中にあった電子マネーとクレジットカード決済の普及促進事業を活用しました。カードリーダーだけを持つ必要はなくて、クレジットカードの決済機にソフトを入れることでポイントリーダーにもなります。交付金や補助金を使うならば、これぐらいしたたかに使うことが出来れば良いと思いますよ。
・藻谷、クレジットカードを使える店であれば、ソフトを入れるだけで、ポイントカードリーダーにもなるわけですね。ポイントカードを持っているファンクラブの人は、行ったときにポイントを貯めたいのでお金を使う。コンビニと同じですね。
・171頁・
・山田、この場合、重要なのは自前でカードとポイントを発行することです。大手のポイントカード会社の制度に組み込まれると、導入コストも高くなりせっかくのデータも持っていかれてしまいます。その上、データを利用する度にお金を取られてしまう。
・ファンクラブに入る方は、一度は来たことがあるか、もしくは興味があって好きで入ってくる人たちですから、そういう人に直接メール等でコンタクトすれば、レスポンスもしっかりあります。新商品を企画する時でも、例えば、新しいスイーツを開発するのならば、顧客データベースからスイーツ好きをセグメントしたり、スイーツ購入の消費アンケートを打つこともできます。その回答にある意見やアドバイス等を反映した商品を作って、その人たちに先行販売することだってできる。ポイント付きのアンケートにすれば回答率も上がります。
・藻谷、つまり、通常のホテルチェーンや楽天トラベル、じゃらんが全国この地域だけでやりましょう、そのことによって地域のリピーターを増やしましょうということなんですね。
・172頁・9/12/2023 8:48:47 PM
・山田、現在日本で発行されているポイントのほとんどは相互交換や利用が可能になってきています。そういう状況ならば、自分たちでポイント制を持ったとしても後々不利になることもありません。当たり前ですが、顧客それぞれのニーズが分かるようになって、ようやく継続的なマーケティングに結びつくわけですから。
・藻谷、逆説的ですが、これは日本の一番端っこである沖縄の離島だからできたのかも知れませんね。一蓮托生モードで「生き残りを考えている。その意味でスイスっぽい。
・山田、実は他の地域でも同様の動きがあります。青森県七戸町や北海道伊達市でもフアンクラブの立ち上げと共に顧客データベースの構築と活用を始めました。それぞれポイント制を導入しただけでなく、住民向けには図書館カードと兼用にしたり、市民の健康増進の進度を数値化するためにポイントを使ったりと、どこも個性的な取り組みを始めています。では宮崎県が会員制度を始め、富山県や青森県、長野県が顧客データベースとファンクラブの検討に入っています。 どこも今後の展開に期待していますが、 本当にマーケティングの実施に至るかどうかは未知数です。
・それと、地域マーケティングということでは、オーブンビッグデータの活用も忘れてはならないです。特にマーケティングの初期段階では、最初に市場や地域の環境分析をせずに動き出しても効率が悪いだけなので、市場の大きな流れや全体像 トレンドを提えるためにもオープンピッグデータから読み取ることは重要です。
・173頁・
・自治体の「旅行会社依存体質」2023年10月9日 8:17:27
・藻谷、なるほど。いろんな動きが起きているのですね。先程、宮崎県が顧客データベース化で先進的なマーケティングに取り組もうとしている話がありましたが、今の宮崎県知事の河野俊嗣氏は若くてビジネス感覚があります。前任者についてはコメントしませんが(笑)、河野さんは総務省出身の元官僚です。総務省は中での個人差が大きい省庁で、センスのいい人はすごくセンスがいい。そういう人が自治体のトップにいると話は早くなる。
・山田、ただ、トップがいくら理解していたとしても、県庁の担当職員が全く理解していないこともあります。そして、本当にやろうとするならば、既存の観光連盟やコンベンションビューロー等の改革とセットでなければしくみとしてうまく回りません。今お話ししたような、観光業界のアンシャンレジーム構造が温存されたままだと、どこで横やり入ってくるか分からないですから。
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・藻谷、補助金を横流しして印鑑ついているだけで給料もらえている人たちに、「新しい仕事をしろ」って言ってもしないですからね。しかも、イベント屋になっている場合は物理的に時間もない。彼らの意識の中では、「面倒臭い余計な仕事が増えた」ってことにしかならないでしょう。
・山田、その抵抗力は本当に大きいですよ。私の関わっている地域でも、改革を進めれば例外なく起きる問題です。そういう力が大きいところほど、あらゆる事業を外に丸投げする。大手コンサルタントや旅行会社等への外部依存体質がすごく強い。何をやるにしても「やらない理由探し」ばかりしますからね。
・そういえば最近、自治体と旅行会社の間に入って双方を繋ぐことを得意とする会社もあります。このビジネスモデルを他の業界の人に話すとかなり驚かれます。
・藻谷、そこは何をしているんですか。
・山田、一言でいうと「あなたの地域を旅行会社のパンフレットに載せてあげます!」です。載せるのが成果で、それで旅行商品が売れるかどうかは関係ないようです。
・藻谷、やる気のない客筋相手だけに成り立つ、究極のニッチですね。 代理人の代理人みたいな存在(笑)。
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・山田、そういう会社が行政とか観光連盟、観光協会にはありがたがられますね。彼らにしてみれば、お客様が増えるかどうかよりも、多くの旅行会社のパンフレットに載ることが最大の成果ですから。旅行会社のパンフレットに載せるには、現地のプログラムやグルメもそれなりの形にしなければならないので、その段取りだけはその代行会社がうまくつけてくれます。行政にしたら、何をやっていいのか分からないとか、どこに売りに行けばいいのか分からないからとてもありがたい存在なのです。一番苦手なところを代行してくれますからね。
・藻谷、行政の場合、ようやく問題の所在が分かったあたりで担当者がローテーションで代わっちゃったりして、なかなかブロが育たない。これもすごく大きな問題です。ローテーションで来た人は、自分では全く旅行しない人である可能性も高い。そうすると、いまだに旅行する人は代理店に行ってパンフを見るんだと本気で思っていたりする。回転寿司しか行かない人がグルメ振興の担当になったようなもので、ただただ悲劇です。そこに、いま山田さんが言ったような会社がやってきて、「とりあえずパンフレットに載せました」となると「よくやった!」となってしまう。
・飲食店の世界ではみなネットが情報源で、飲食店を紹介する代理店なんて存在しないし、代理店の出す飲食店マップに店を載せてやるといってフィーを取るビジネスなんで存在しない。
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・それに比べて旅行業界はまるでIT石器時代ですね。
・山田、観光課の担当者に話を聞くと、そういうところにでも頼んで入ってもらわないと、地元の事業者が新しい商品を作るようにならない、とか言っていますね。地元は地元で「本当に食うに困っている人」は少ないし、本当に困っている人たちは既にいなくなっているか、補助金をもらって何とか生き延びようと思っているので危機感がない。
・やる気のある事業者は足を引っ張られていますから、変な動きからは逃げる。
・ダメなほど全くやる気のない観光事業者が大量に存在していることが問題になるのですが、逆に言うと、旅行会社からすれば売れない部屋の在庫を抱えている旅館やホテルがないと商売ができない。流通業としての旅行会社が持つ構造的な問題ですね。
・藻谷、今どき旅行代理店に行く人は、国民の三割しかいない。うっかり行くと、代理店に出さないと客が来ないような旅を売りつけられる可能性がある。つまり、今の旅行代理店はダメな商品を集めて感度の低い客に売るというディスカウンターサービスになっているわけですね。旅行代理店には、「あの旅館はダメ」という苦情も集まるし、それをフィードバックして経営改善をするコンサル能力もあるんだけど、あえてやらない。
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・改善しちゃうと直販を始めて、代理店を通さなくなっちゃいますから。これ、関係者はみんな知っているけど言わないですよね。
・じゃあ、よくできてる旅館があればいいのかというと、困ったことに、よくできてる旅館が一軒だけあっても地域全体としてはぜんぜん価値が上がらない。
・山田、この業界で、「旅館だけ栄えているけど地域全体は活性化しないまま」の実例としていつもあがるのが、能登半島の和倉温泉です。「おもてなし日本一」の加賀屋は良いけれど、地域としてはそれほど潤っていない。一つの有名旅館が突出しているだけでは和倉温泉や能登全体の活性化にはならないのです。そうは言っても、「一つだけで核になるがあるだけまだマシだ」と言いたくなる地域が全国にはいっぱいありますけどね。
・旅行会社もこれまでの手数料ではやっていけないことは自覚していて、新しいビジャスモデルを創造しようとしているところもあります。特に、発地側の都合ではなくて着地側の地域と共に一緒に事業化することも増えてきました。そうでないと、旅行業としての特性を見出すことが難しくなってきますから。これから大手の旅行会社ほど淘汰されるようになると思います。実際、専門特化した中小旅行会社の方が元気なところが多くなっています。
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・そういう事情を分かっているので、最大手のJTBグループが 総合旅行業からして「交流文化事業」を目指すことを掲げていますが、これまで分社化ことも含めて、成果を出すのはこれからだと思います。
・有名観光地でゾンビたちが大復活!
・山田、最近の動きでとても気になるのは、全国的に有名な観光地や温泉地の観光協会や宿泊業組合等の組織で、役員が老齢化していることです。これまでの古い体質から脱して、新しい組織で動きだしたと思ったら、役員が前の世代に先祖返りしてしまっている場合も多い。でも、居座っている古い人たちも何をすればいいのかぜんぜん分からない。役職を手にして喜んでいることだけは確かですが(笑)。
・九州にある有名温泉地でも、新しい観光推進組織が立ち上がり地域全体で支えていかなくてはならないという時期に、地元の宿泊業組合の役員が代わって「逆走」が始まったことがありました。役員が代わっただけで、それまでまちづくりに頑張っていた組織がただの会員同士の親睦会になってしまった。全国の老舗温泉地ではいくつも実例がありますが、どの地域でもうかうかしているとやる気ある若手にとって代わろうとするヤクガイゾンビに乗っ取られますね。
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・ヤクガイとは薬害ではなくて、役職だけを欲しが役害です。
・藻谷、観光地は地域としてまとまって行動しなきゃダメですよという話をすると、若い世代は比較的分かってくれる。
・なぜかというと、いい時代を知らないから。旅行業界のアンシャンレジーム構造がなぜできたかというと、職後、旅行の「リョ」の字も知らない人たちが一生に一回ぐらいは旅行に行ける時代になり、さらに一年に一 回ぐらい行ける時代になったので、今の中国人による爆買いみたいな現象が国内で起きたわけです。素人さんが大勢旅行に行くので案内業、つまり旅行代理店が大成長を遂げにするという時代が七〇年代にあった。
・年寄りの中にはその残像がいまもあるんだけど、そんなのを知らない若い人たちは、昔の常識は役に立たないと分かっている。旅館だって、飲食店と同じように直接ネットで見て自分で選ぶと分かっている。だけど、旧来型の人たちがまだ生き残っていて、客が来ないと「お前ら観光協会のプロモーションが悪いからだ。だから俺に実権を戻せ」となってしまう。有名観光地で起きているのはそういうことですよね、せっかく若手が頑張ってやろうとしたり、北陸の某有名温泉のよう県の観光担当が事情を分かって指導していたところで、突然先祖返りが起きてしまう。
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9/26/2023 9:42:55 AM
・もしくは、世代交代を全くせずに老害が残る。
・山田、まあ戻ってきても考えることは宣伝や広報が中心で、例えばいきなり知事のところへ行って「大河ドラマ朝ドラを引っ張ってこい」と訴えたりするから、行政側も頭抱えますよ。
・藻谷、つまり彼らは「知名度が落ちているから客が来ない」という認識なんですよね。松下村塾のあった山口の萩は二年に一度は大河ドラマに出ているけれど旧態依然の事の巣のようになっています。関ヶ原も同じく二年に一回は大河ドラマに出るけど、誰も観光に行かない事実に照らして考えればわかりそうなものですが、考えない。ましてや知名度ではなく自分の経営が悪いと考えることはない。
・山田、その力に屈して補助金を出してプロモーションをしたら、それこそ彼らや代理店の思うつぼです。力技のキャンペーンで無理やりダメな旅館やホテルにお客様が来たとしても、自分たちの貧しい力は棚に上げたまま更に何もしなくなり依存体質が強くなるだけです。しかも、ダメ旅館やホテルに行ったお客様が満足出来ないので更に評判が悪くなる。結果的にはネガティブプロモーションにしかなっていない。
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・怖いと思うのは、新幹線開業効果や高速道路、架橋の開通効果、そして訪日外国人旅行者効果で一瞬だけ吹いている最大瞬間風速的な集客力ですら、自分たちの力だと勘違いしていることです。何もしなければ翌年から客足が落ちていくのははっきりしているので、その時にはどうするのか見ものです。この他力本願的なひどい業界構造が、日本中の古くからの観光地で起きている偽らざる現実ですよ。
・しかも、この他力本願は国レベルでも同じことが起きることがあります。観光庁やJNTO (日本政府観光局)も最近は地方の小さな事業者に対しても力を入れてくれるようになりましたが、国策として大きな施策と事業を進めるためには大手が中心となることは仕方がないと思います。
・観光業界の主力はどうしても大手旅行会社や運輸会社、大手ホテルチェーン等ですから。ただ、業界にも「役所なのだから、業界を守るのが当たり前だろ」という意識でいる人が少なからずいるんですよ。まるでバブルの前の金融行政みたいです。その前に、まずは売れる商品やサービスを提供するために努力しましょう」というのが事のはずですが。
観光庁の構造的問題
・山田 そして、そういう状況の中で政府観光庁の動きと言えば・・。
・182頁・9/12/2023 9:50:54 PM
・藻谷、観光庁は二〇〇八年、自民党政権の時に出来ましたが、民主党政権になった時、初代観光庁長官として尽力されていた国交省出身の本保芳明さんが当時の前原誠司国交大臣に切られてしまいましたね。
前原さんといえば、あらゆる反対を押し切った羽田空港国際化は彼でなくてはできなかった大ホームランです。ですが観光庁は、初代の本保さんの時はまだ政策として大きく動かそうということがあったけど、前原氏の同郷の元総務官僚が大抜擢で長官になった時代には、観光庁は「プロモーション」しかしていなかった印象がある。今の長官は実務家に戻っていると思うのですが、あの時期に私も観光庁と一気に関係が切れてしまって、よくわかりません。
・山田、政権政治力で強引に入ってくる有識者やコンサルタント等もひどい時がありますね。そういう人たちに限ってほとんど現場での実績が無い。それなのに、机上の空論でやりたい放題するのでいろんなことが振り回されてまともに進まなくなる。しかも、大きな予算が付いてることが多いのでタチが悪いです。
・訪日外国人旅行者の対応については、伸びている今こそ、次に繋げるために調査を徹底的にやった上で現場へフィードバックしなければ改善も新しい企画も出来ない。もちろん、重要なことを全くやってないのではないのですが、どうしても目立つ宣伝やイベント等の一過性のものが主流になっています。
・JNTOも組織内に海外マーケティング部があるのですが、まだまだ実際のマーケティング機能を担うには程遠い。やっと観光庁から予算も権限も移ってきたので今後に期待です。素晴らしい人材も多いのですが、放っておくと霞が関のロジックに取り込まれてしまいますから、現場をよく理解した上で政策をうって欲しいです。
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・藻谷、観光庁やJNTOはやっぱり役所なので、手段であるはずの施策や事業の実施が目的化してしまう傾向があるんですよね。「流行のビッグデータを使え!」みたいな話が先に出てきて、それで何をするのかの議論が深まらない。戦艦大和の主砲の口径をでかくしました。でも使い方は分からないので特攻させました。みたいな。
・観光業界には、大小あらゆるメーカーが普通にやっている「PDCAサイクル」が浸透していない。商品を設計 (P) して世に送り出し(D)、フィードバックをチェック (C)して問題点を直す(A)のが通常のプロセスですが、観光業界にはCとAが欠けている。山田さんは、そのCとAをきっちりやりなさいということを言っているわけです。チェック手段として、さきほどの竹富町のようなファンクラブを作りましょう、それで得た情報を商品開発に向けましょうと言っているんだけど、ダメな商品があることによって生き延びている人たちが業界の主を握っている以上、アジャストメントは許されない。
・184頁・9/12/2023 10:10:31 PM
・山田、そもそも最初のPの内容が全デメな場合が多いですから、その場合は、いくら PDCAを回しても無駄なだけです。
・藻谷、話せば話すほどひどい業界だという話になりますが、他にこんな業界があるかって考えると、直販所も通販もなかった時代の農業みたいな感じがするんですよね。今、農業は花盛りです。大手直販所が各地にできて、商品のクオリティがよくなった。
・それが大手流通にも波及して、大手スーパーの売り場にも直販所めいたものが増えてきている。先んじてそのことに気付いて自己改革をした一部の農協は大手とも組めたし、多くのダメな農協は安売りを続けているだけ。規制だらけの農業分野でも、競争原理は 働いたわけです。ところが旅館の場合だと、今の段階では農協に当たる旅館組合がほぼ機能してない。
・山田 逆にそこまでひどいと後はいい方に変化するしかないじゃないか、という気になりませんか。
・藻谷「うまくて安心なものであれば、もっと高い値段を払ってもいい」と言う顧客が多くいて、おいしい農作物がとれる日本の地の利がある以上、農業が変化するのは当然 だったわけです。同じように、日本がバリエーション豊かな観光素材の宝庫で、かつ客には目の肥えた中高年層や個人客の外国人が増えている以上、普通に考えると観光業界も変革しなきゃおかしいはずなんです。その意味では、希望はありますよね。
・185頁・終わり9/12/2023 10:20:55 PM・9/27/2023 6:22:26 AM・
2023年9月27日 6:42:05
2014年4月23日 10:31:43
上記のことを詳細に論証している。
9:55 2014/12/08重税国家日本の奈落・
2015年7月8日 8:17:17